
Featured Projects独立。誰かの、そして自分たちの明日を拓くため
自分や誰かの情熱や想いにいつも目を向け、大切にしながら、私たち自身よいものを生み出し続けていきたいです。
“ものづくり”の可能性を信じ挑戦を続けてきた二人が、次の歩みを進めようとしている。
2025年3月、Featured Projectsが運営元のインクワイアから独立。新会社「株式会社Featured Projects」として新たに始動することを発表した。主宰の後藤あゆみと相樂園香の二人が、共同代表となる。
年に一度のデザインの祭典『Featured Projects』開催を中心に、「よいものづくりについてともに考え、熱量を生み出していく場」の創出に力を注いできた二人。今後はイベントに限らず、様々な“変化”を見据えているという。
個人としても多様な活動に携わる二人は、このタイミングでなぜ、“独立”へと至ったのか。また、これを機にFeatured Projectsはどこへ向かうのか。今の率直な心境や描く青写真を聞いた。
独立への想いと変化
2022年に当媒体designingのチームに、後藤と相樂が加わり始まったFeatured Projects。立ち上げ当初から、中長期では法人として独立するという展望は持っていた。今回はさまざまな条件や機会が重なり、当初の想定より前倒しする形でそのタイミングが訪れたという。この展開を、主宰の二人はそれぞれどのように受け止めているのか。
後藤がまず口にしたのは「覚悟」だ。フリーランスとして10年以上活動し、さまざまな仕事に携わる後藤が、なかでも人生の“軸”にしたいと願うのが、Featured Projectsの活動だという。ただ、それを実現するには、今より大幅な進化が欠かせないと考えている。
- 後藤
Featured Projectsをはじめた当初から持ち続けているのが、『デザイナーやデザイン業界に必要だと思ってもらえるプロジェクト”を生み出し、続けたい』という願いです。とてもシンプルな話ですが、それを続けるには、私たち自身が常に時代や社会を捉え、進化しなければならない。もともとそのように考えてはいたものの、独立を機にその覚悟が一層強くなりました。
私たちなりのビジョンを掲げて、これまで以上に様々なテーマや課題、問いに対して、アイデアや策を提示していく。その積み重ねによってFeatured Projectsができることを広げ、世の中によい変化をより一層生み出していきたいと思っています。
相樂も、これまでの歩みとを振り返りつつ、今後を見据えた変化を語る。
- 相樂
Featured Projectsの前身ともいえる、渋谷を舞台にしたデザインフェスティバル『Design Scramble』の時から、私たちが向き合ってきたのは“フェスティバル”でした。ですが今後は“会社”という単位の物事と向き合う必要がある。それに伴い、スコープも役割も確実に変わってきます。
同時に、私たち自身も会社員やフリーランスという立場を持ちつつ、どのようにサステナブルに活動を続けていくか——といった個人としての受け止め方も改めて考える必要があります。
後藤と相樂の言葉からは、独立を機に確かな“進化”を見据えていることが伺える。実際、これまでのFeatured Projectsは、年に一度のデザインフェスティバルとイコールに近い関係だったが、当人たちは今後それに「終始するつもりはない」という。

後藤あゆみ|Featured Projects 共同代表。大分県別府市生まれ、京都精華大学デザイン学部を卒業後、スタートアップ企業を経て24歳で独立。DeNAやWantedlyをはじめとした様々な企業のデザイン組織のPR / ブランディング業務に従事。デザイナー / クリエイターを対象としたイベントや場づくり、プランニングを得意とする。デザインスタジオ・DCA Symphonyにも所属し、カリモク家具「KARIMOKU RESEARCH」のプロモーションやプロジェクトマネジメントなどを行う。
- 後藤
フェスティバルは私たちの大きな特徴であり強みだと自負しています。たとえ組織形態が変わっても、大事に続けていくことは変わりありません。ただ、それと同時に、今後はより広くデザインや社会にかかわる様々なプロジェクトを展開していきたいとも考えているんです。
外部の企業の方と場づくりをはじめとしたコラボレーションを試みたり、クリエイター同士がものづくりをする機会をつくったり……。事業的にも新たな可能性を模索したい。それゆえフェスティバルにこだわり過ぎず、私たちがデザイン業界に対してできることを見つけていきたいです。
同時期、企画検討を進めていた2025年度のデザインフェスティバルを“開催しない”という意志決定をおこなった。開催場所や会場、従来のスポンサーを軸とする事業モデルなど、いくつかの観点から「同じ形態で開催すべきか否か」に議論の余地があった。
結果、「“これまで通り”を前提にするのをやめる」という判断へつながった。二人はこれを「変化の機会」と語るとともに、「変えるべきではないこと」を見つめ直す機会にもなっているともいう。
- 相樂
とてもありがたいことに、例年開催していた時期が近づくと、これまでボランティアやスポンサーなどでお力添え頂いた皆さんから『今年はありますか?』という連絡をいただくことがあります。
そうやって、楽しみに待ってくれている方がいるのはすごく嬉しいですし、そうした出会いやつながりが今の活動を形づくってくれている。だからこそ、そうした縁は変わらず大切にし、今の延長線上に更なる変化があると感じてもらえるよう、誠実に取り組んでいきたいと思っています。
ものが生まれる“プロセス”に光を当てる
変わらないものの一つに「年単位で活動のテーマを設定する」ことがある。
フェスティバルとしてのFeatured Projectsは、その年ごとショルダーコピーのようにテーマを設定してきた。2023年は『よいものづくりは、明日を拓く』、2024年は『“そうぞう”からはじまる』。そして2025年のテーマを議論する中で浮かび上がってきたのは『ものがうまれる、その「間」』という言葉だった。
- 相樂
生成AIの発展もあり、「誰もがクリエイターになれる」と言われる流れが、これまで以上に強まっています。それ自体はよい流れだと思う一方で、どこか違和感もあって。
その正体を探る中で見えてきたのが『プロセスが見えないこと』でした。AIは、プロンプトを入力すれば即座に何かが出力される。ですが入力から出力の間は、いわば“ブラックボックス”です。どんなプロセスを経たか、私たちにはわからない。
それに、今はたくさんの“もの”があふれる世の中でもある。壊れたらすぐに新品をまた買うことができます。ですがそれは“直す”という、ものが作られたプロセスをさかのぼる行為を遠ざけることにもつながっています。
そうした、最終的なものやかたちが私たちの元に届くまでの「間」に触れる機会を取り戻すこと、増やしていくことで、ものや技術との新たな関わり方が見出せる。そんな気持ちが、今年のテーマへつながっていきました。

相樂園香|Featured Projects 共同代表。株式会社ロフトワークにてFabCafeのアートディレクション・企画運営に携わったのち、フリーランスを経て2018年に株式会社メルカリに入社。研究開発組織「R4D」を経て、全社のブランディングを担当。2021年からTakram。公私ともにクリエイティブでオープンな場の実現・発展に取り組む。
そのテーマのもと現在準備を進めているのが「プロセスが見えるマーケット」と「ツアープログラム」だ。
デザインフェスティバルの『Featured Projects』は、「トークセッション」「ミートアップ」「ワークショップ」「展示」といった複合的なプログラムを混ぜて開催されたが、そのひとつに「クリエイターズマーケット」があった。
捉え方によっては、フェスティバルの「一部分」を切り出すような形にも見えるが、二人は現在構想しているものを「クリエイターズマーケットと呼ぶか悩んでいて…」と言葉を続けた。
- 相樂
目指したいのは、ものづくりの過程で何が行われているのか、どんな作業や時間を経てきたかという“プロセス”を知ったうえで、ものを手にしてもらうこと。それが最終的には、「ものとの付き合い方を考える」ことに結びつくと考えているからです。
集客の観点で言えば『クリエイターズマーケット』と呼ぶ方がわかりやすいのですが、本質的な価値や狙いは“物販”とは少し異なるところにある。そうした背景もあって、『目指す体験』をより表現した呼び方がないかと考えています。
- 後藤
これまでフェスティバルで展開してきた『クリエイターズマーケット』は、あくまで“作られたもの”と“作り手”を軸にしたもの。ですが現在企画している企画ではものや人だけでなく、背景のストーリーや過程にも触れられるようにしたいと考えています。
読みものや動画、トークなど、形態はさまざまな可能性はありますが、出展者さんがものづくりに向き合う姿勢や考え方を最も体現できる方法を模索したい。具体はまだまだ検討段階ですが、これまでの経験を活かした新たな形をつくっていきたいです。

『Featured Projects 2024』でのクリエイターズマーケット(提供写真)
もう一つ、二人が構想するのが、Featured Projectsならではの「ツアープログラム」だ。全国各地の工場や企業を訪ね、“ものづくり”の現場に触れる機会を提供する。そのためのツアーのコーディネートを二人が担い、新たな出会いや創造のきっかけを生み出していきたいという。
- 相樂
見学する参加者にとっては、技術的な工夫や考えを学べるだけでなく、その地域ならではの歴史や文化、人に触れる機会にもなる。一方で、見学してもらう企業や工場にとっては、参加者とのコラボレーションや協業につながる機会にできないかと考えています。
以前、研究者の友人と焼き物の工場を訪れたことがあって。その時に『陶芸の釉薬とデジタル技術を組み合わせたら、面白いかもしれない』と話していたのが印象的で。異なる領域のものづくりに触れることで、クリエイター同士でも新たな機会につながるのかもしれないと思いました。
Featured Projectsはこれまでに様々な分野のクリエイターの方と接点を持ってきましたが、ツアープログラムが、分野を超えたコラボレーションのきっかけにまでなれば、他にはない活動にできるかもしれないと思っています。

女性デザインリーダーをフィーチャー
これまでの積み重ねや縁を大切にしながらも、柔軟に試行錯誤を続けていく。二人が紡ぐ言葉からは、今回の“独立”を機に生まれる前向きなエネルギーが感じられた。
とはいえ二人にとって今はまだ“模索”の期間でもある。だからこそ、何かに限定しすぎることなく、さまざまな可能性に目を向け挑戦している。2025年3月から始動した、Figmaとの「女性デザインリーダーの活躍」をテーマとしたプロジェクトも、二人にとってはその模索のひとつだ。
先日@FigmaJapan ✖️Featured Projectsで
— Featured Projects ✴︎ (@fp_designing) March 28, 2025
女性のデザインリーダーの活躍を繋ぐ『In frame: A design leaders meet up 』を開催しました💐
デザイナーを取り巻く環境やジェンダーギャップについて学んだり、議論したり、とても有意義な時間になりました。参加くださった皆様ありがとうございます✴︎ pic.twitter.com/RlNVepchQq
3月25日には『In frame: A design leaders meet up』と題されたイベントを共同で開催。今後は動画コンテンツの展開など、イベント以外のアウトプットも予定されているという。
- 後藤
私がSNSで、女性のデザイナーが活躍できる環境や女性のデザインリーダーを増やしていきたいと投稿したのを、FigmaのCorey Leeさんが見つけてくださり、一緒にやらないかと声をかけていただいたんです。私と相樂の女性二人が共同代表として活動してきたことにも、意味や価値を感じてくださったのかもしれません。
- 相樂
国内のカンファレンスやイベントを見てみると、登壇者が男性ばかりというケースは珍しくありません。もちろん、それが一概に悪いこととは思っていませんが、これまで『Featured Projects』を開催する中で、登壇者の男女比率を等しくすることの難しさを実感していました。そうした実感があるからこそ、Figmaさんのお話しにも『ぜひ』と即答しました。


Figmaと共催した『In frame: A design leaders meet up』の様子(提供写真)
世界中で利用されているデザインツールを展開し、様々な国に拠点を構えるFigmaとのコラボレーション。Featured Projectsにとっては、今までにない規模の取り組みになる可能性も有している。
- 後藤
今後、日本国内だけでないグローバルな取り組みにしていきたいという話も上がっています。たとえば、様々な国の女性デザイナーの働き方や活動内容をドキュメンタリー番組として撮影・編集して、公開する。Figmaさんとご一緒するからこそ、そうした規模のチャレンジもできるかもしれません。Featured Projectsの掲げる思想や想いとの相性も良いので、より未来につながる取り組みにしていければと考えています。
誰かの明日も、自分たちの明日も拓く活動へ
最後に、二人へ今後の展望を問う。
覚悟にはじまり、直近のテーマや具体的なトピックなどはすでに語っていただいたとおりだが、その先に見据える中長期の未来はどのように描いているのか。二人は少しの間を置き、一言ずつ丁寧に言葉を紡いでいった。
- 相樂
個人としては、中長期って全然考えないタイプなんです笑 自分の中で気になっているテーマや疑問に感じたこと、関心を持ったことを一人ではなくみんなで囲んでみたいというのがモチベーションの根底にあって。そのために分野や専門の壁を超えて、仲間とアイデアを出し合ったり、一緒にものをつくったりする。そんな機会を、Featured Projectsという場所で一つでも多く生み出していきたいです。

- 後藤
私にとってFeatured Projectsは、日常の中で覚えた違和感や強い想いを、無視せず拾っていく活動でもあるんです。普段であれば慣れや割り切りでやり過ごしてしまう何かを、無視せず、具体的なプロジェクト化して解決しようとしたり、形にして投げかけてみたりする。ある種のライフワーク的な側面があります。
ただ、そうした活動に触れてくださった方が、自分の活動や人生を考え直すきっかけになったり、心が動く瞬間につながったりしたら嬉しいと思っていて。実際『心が動かされた』『人生を見つめ直すきっかけとなった』『キャリアチェンジの機会となった』という声をいただくこともありましたし、これまでの活動を振り返ってもそうした手応えは確かにある。
展望ではないかもしれませんが、そうした自分や誰かの情熱や想いにいつも目を向け、大切にしながら、私たち自身よいものを生み出し続けていきたいです。
「よいものづくりは、明日を拓く」——そんな言葉を掲げて立ち上がったFeatured Projects。
この言葉は、ものづくりに携わる全ての人々の方を向いたものだが、二人の話を聞けば聞くほど“クリエイターとしての自分たち自身”にも向いたもののようにも聞こえてくる。
二人にしか拓けない“明日”へ向かって、その道筋はまだ始まったばかりだ。
