ビジネスとデザインの間にある"分断"へ挑むこと

デザインビジネスマガジン"designing"創刊に添えて。

「デザイナーは稼げない」

業界の第一線で活躍するデザインファームの代表も皆口をそろえる。

僕自身、取材を重ねる中で同じ話を幾多も聞いてきたし、さまざまな媒体でも度々語られている。(稼げないというと語弊があるかもしれないが、少なくとも業界全体で給与レンジが低く、市場規模が小さい)

これにはさまざまな理由が考えられるし、解決しなければいけない課題は数多存在する。

そのなかで、僕は「ビジネスとデザインの分断」を解決したいと思っている。

それはデザインに対する理解という意味はもちろん、接触機会、情報格差という意味でも分断が生じている。

ビジネスサイドに必要なデザインとのタッチポイント

日本において、まだまだデザインに対するリテラシーが高いクライアント(=ビジネスサイドの人間)は多くない。

デザインの善し悪しを判断できないといったわかりやすい点から、デザインを単なる意匠(ビジュアルデザイン)として捉えていること、デザインに対し適切な予算配分ができていないなど。発注側になる人にとって考えてなければいけない課題はたくさん存在する。

デザインエージェンシーの中には、企業にデザインをインストールするためにツールを開発したり、理解を深めようと尽力している企業もある。ただ、彼らがリーチできる企業は当然だが限られてくる。

より広範囲にリーチするためには、多くのタッチポイントが必要だ。

デザイナーの発信不足

他方でデザイン側にも問題がある。一番大きな課題はデザイナーが語らないことだ。

一般的にデザイナーはアウトプットで語れと言われることが少なくない。それは間違いではないけれど、アウトプットを産むための思考方法やデザインプロセス、合意形成などにも大きな価値がある。

にも関わらず、これまでデザイナーはアウトプットに縛られ、価値あるプロセスについてあまり発信をあまりしてこなかった。それは、ビジネスサイドがデザインを理解するために必要な機会を提供してこなかったとほぼ同義だと思う。

優秀なデザイナーと対峙したことのあるクライアントであればデザインの価値が理解できるようになるかもしれない。ただ、それは他の人には伝わらない。一緒に仕事をした個人の理解が向上しても、社会全体の理解は変わらない。

デザインの価値を正しく理解してもらうためにも、デザイナーはもっと発信しなければいけないと僕は思っている。


深津さんがデザイナーにnoteで発信をと訴えかけているのはとても大切なことだと思っていて、それはデザイナー個人がレピュテーションを蓄積していくためでもあるが、発注側を含む社会全体にデザインを理解する機会提供につながると思う。

デザイナー、ビジネスサイドが共に情報摂取をできる場

もちろん、デザイナーが単に発信すれば全てが解決するといった話ではない。デザイナーはビジネスについてより深い理解が求められるし、デザイナー・ビジネスサイドとも、単純に良いデザインとの接触機会も増やさなければいけない。

僕個人ができることなんてそう多くない。けれど編集者ができるのは情報発信を通し、デザインとビジネスにある情報格差を埋めることだと思っている。

デザインビジネスマガジン"designing"創刊に添えて。

Credit
小山和之

designing編集長・事業責任者。大学卒業後、建築設計事務所、デザインコンサルでの編集ディレクター/PjMを経て独立。2017年designingを創刊。2021年、事業譲渡を経て、事業責任者。

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