契約書に『夢』を描く——ヘラルボニーの法務が編む信頼のかたち

署名のところに捺印していただくだけでも法的には問題ありません。ただ、それがヘラルボニーらしいか?と問われると、我々の保身のようにも思えてしまったんです。

契約書の裏面に「夢を描いてもらう」——そんな“ルール”をデザインする組織がある。

障害のある作家たちによるアート作品のライセンス事業を展開するヘラルボニー。2,000点以上のIP(知的財産)ライセンスを管理する同社にとって、さまざまなステークホルダーとの“契約”は事業上とても重要な要素だ。

アート作品を生み出す作家、作家を支える家族や福祉施設、プロダクトを製造するメーカー、協業する企業や団体……といったステークホルダーとの共創によって同社の事業は動かされる。当然そこには多様な契約やルールが介在するが、それぞれが大切にする価値観も考え方も異なる中で、いかに価値を守り、高めていくのか。

これはデザインとは縁遠い話に見えるかもしれない。

だが、本記事はそうした“ルールメイク”を紐解く。同社のクリエイティビティを取り巻く多様な要素のなかでも、ルールは不可欠な存在だと感じたからだ。前提の異なる多様なステークホルダーと同じ方向を「向き続ける」のにルールがカギとなる。

話を聞いたのは、執行役員CLO(チーフ・リーガル・オフィサー)の玄唯真と、作家らとのライセンス契約を担う齊藤由美。齊藤の名刺には、“Legal Department”、“Trust Weaving Group”とある。「信頼を編む」を意味する言葉が、なぜチーム内のグループ名に冠されているのか。その真意とともに伺った。

「権利」を根幹とするヘラルボニーのビジネス


企業における法務の役割を思い浮かべたとき、多くの人が連想するのは「堅い」イメージかもしれない。どちらかと言えば「守り」や「後ろ盾」のような印象を持つ人も多いだろう。

とりわけコンテンツやIP事業においては、その色が強い。著作権やライセンス契約のあり方が事業の成長を左右し、クリエイターや制作チームとの関係性が企業の命運を握る。アートライセンス事業を主軸に展開するヘラルボニーもまた、その最前線のプレイヤーだ。

「作家の方々の素晴らしいアートがあるからこそ、私たちのビジネスは成立します。作家の方々と契約し、アートライセンスとして管理し、プロダクトやサービスとして形にしたり、さまざまな企業様と協業したりする。『権利』は、ヘラルボニーのビジネスの根幹です」

そう話すのは、ヘラルボニーで最高法務責任者(CLO)を務める玄唯真。企業法務大手の西村あさひ法律事務所・外国法共同事業で勤務し、アメリカ、イギリスへの留学を経て、2024年9月にヘラルボニーへジョインした。

玄唯真|ヘラルボニー 執行役員 兼 最高法務責任者(CLO)。弁護士・ニューヨーク州弁護士。中央大学法学部卒業後、西村あさひ法律事務所・外国法共同事業で8年間勤務し、主にファイナンス案件を担当。在籍中にニューヨーク大学ロースクールを修了し、エディンバラ大学ビジネススクールで国際戦略論とサステナビリティの修士号を取得。帰国後は伝統的なファイナンス業務に加え、ESG投資、インパクト投資、スタートアップ支援業務に従事。その過程でヘラルボニーと出会い、2024年9月入社。

IPを基軸とする同社において、それを生み出す「作家」は価値源泉であり、重要なパートナーだ。もちろん、これは事業的な理由だけではない。「異彩を、放て。」という言葉をミッションに掲げ、障害のある異彩を放つ作家の才能を社会へ届けようとする同社にとっては、作品を社会へ届けていくこと自体が存在意義でもある。

それゆえ、ヘラルボニーは「作家ファースト」を徹底する。作家やその家族、福祉施設などと公平なパートナーシップを築き、各ステークホルダーと信頼関係を結ぶ。

「作家さんが嫌がることは絶対しない、というのが基本姿勢です。例えば企業とのコラボレーションの際、一般的には『使った作品を他の企業には使って欲しくない』といったご要望をいただくことがあります。

ですが私たちはミッションに『異彩を、放て。』と掲げているように、作家さんの才能をさまざまな形で発露していくことを重視しており、独占的な契約はその妨げになる可能性もある。そう説明すると、もともと私たちの理念に共感して一緒にやってくださっている方々ですので、基本的にご理解いただいています。とてもありがたいことです」

こうした「作家ファースト」の姿勢は、実際の契約内容の細部にも反映されている。IPビジネスの場合、クリエイター自身の著作権を企業が買い取り、権利を企業側に移転させることも珍しくない。

だが、ヘラルボニーではあくまで利用許諾のライセンス契約を結び、作家が著作権を保持する立場を取る。その上で、もし作家やその家族、福祉施設が契約の更新を望まなければ、その意思を尊重しているのだ。

契約書の裏面に描く、作家の「夢」


「作家ファースト」の姿勢が端的に表れているのが、「契約書」だと玄は言う。

契約書と言われると、とっつきづらい印象をもつ人も多いだろう。アプリやサービス利用に際し、ちゃんと読み込まず「同意」のチェックを入れた経験がある人もいるはずだ。くまなく読み込み、本当に理解した上で契約している人がどれほどいるだろうか。

まして日常生活においても障害のある作家の方が、どうやってその契約を「承諾した」という意思を示したとみなすのか。実際、意思能力が問題となる例として、認知症のある方などが結んだ契約について「意思能力がなかった」と無効とされることもある。

そこでヘラルボニーは、意思を確認する手段として、契約書に「夢」を書いてもらう取り組みを始めた。

「署名のところに捺印していただくだけでも法的には問題ありません。ただ、それがヘラルボニーらしいか?と問われると、我々の保身のようにも思えてしまったんです。

そこで契約の意義を改めて問い直したとき、そこにあるのは約束であり、お互いに託し合う関係性なのではないか、と考えました。私たちは作家さんがやりたいことを叶え続けられる事業体であり、それを約束したいという想いもありました。そこで(齊藤)由美さんから出てきたのが、『夢を描いてもらうのはどうですか?』というアイデアだったんです」

齊藤「純粋に、作家さんのことをとにかくもっと知りたかったんです。作家さんやご家族、福祉施設の方々とやり取りさせていただく中で、何か一緒の場所へ向かって歩んでいけるような指標があればいいな、と。契約書はその役割を担えると考えたんです」

齊藤由美|ヘラルボニー Legal Department Trust Weaving Group。2022年5月に入社。

作家やその家族、福祉施設の担当者らとともに契約書を読み合わせ、契約を結ぶ。それから「ヘラルボニーとともにどんな夢を叶えたいですか」と質問し、契約書の裏面に記してもらう。その形態は、文章に限らない。思いのままにのびやかな線や絵を描く人もいれば、普段から作家をサポートする家族や福祉施設の担当者が聞き取り、代筆することもある。

齊藤「ご家族がその様子を動画で撮影してくださることもあって、背筋が伸びる想いがしますね。

最近始めたばかりの試みですので、まだまだこの形式が正解だとも思っていません。施設の方から「夢と言われると『今すぐ叶えなきゃいけない』と思う方もいらっしゃるんですよ」と教えていただいたこともあって、捉え方は人それぞれなのだと改めて認識させられました。その方にとってどんなふうに伝えたほうがいいのか、日々学びながらやり取りさせていただいています」

電子署名サービスでも代替できるプロセスを、あえて対面で行い、署名だけでなく夢を描く。家族や福祉施設の方もその場に立ち会い、時間を共有する。効率化とは真逆を行くその選択に、契約という行為の意味を再定義する意志が見える。

「契約書に絵を描くというのは、私は少なくとも前職時代に見たことはありませんし、もし仮に法廷で契約書の解釈が問題になったとき、意味のあるものとみなされないかもしれない。けれども少なくとも、その方が契約書に向き合って署名をし、意思を持ってその行為を行ったという事実が残ります。

さらに、目の前で作家さんが私たちに夢を託し、緊張感もある中でその書面と向き合っているところを見ると、「この人の作品を世に広げたい」と、メンバーのコミットメントも高まる。一見非効率かもしれませんが、作家さんにとっても私たちにとっても、ある種の“儀式”として、価値ある時間なのではないかと思うのです」

B Corp認証によって評価された「作家ファースト」の姿勢


法務部が担うのは、もちろん「契約書」だけにはとどまらない。齊藤が主導したもののひとつに、直近注目を集めた「B Corporation™︎*」(以下、B Corp)の取得がある。ヘラルボニーは2026年2月にB Corp認証取得を公表。申請から3年以上の審査・評価期間を経て、認証取得の条件となる80点(約200点満点)を上回る100.5点の取得に至った。

「エディンバラへ留学していた頃、B Corpを研究テーマにする講師がいました。彼はよくB Corp認証の取得はかなり難しいからこそ、取得した企業は一目置かれるとおっしゃっていました。

同時に、B Corpを取得する過程で、どの分野のどういった点が不足していて、何を改善すべきかが見えてくる。取得企業はそのプロセスを経た企業で、気づきから自分たちの取るべきアクションに移行していける企業という認識が得られ、そこが評価されるというのです」

ヘラルボニーもまさにそうしたプロセスを経ることとなった。2022年にトライした最初の申請では取得条件をクリアできず、B Labからのアドバイスを受け、評価基準や設問意図を踏まえた上で社内体制を整備。結果、ガバナンス・10.7点、従業員・34.0点、コミュニティ・28.7点、環境・13.0点、顧客・13.8点の計100.5点という評価を受け、認証取得が決まった。

《ヒョウカ》浅野 春香 / Haruka Asano

「初めて申請したときにはまだ国内で取得する企業も少なく、『この設問に答えれば認証してもらえるんだ』と思っていたのですが、そうはいかなかったですね」と齊藤は笑う。

とりわけ従業員、及びコミュニティ分野において高得点を記録したが、これは特に、障害のある方など就労に障壁のある個人の雇用や就労機会を生み出していること、そして「作家ファースト」を基軸に、作家をはじめとする各ステークホルダーと公平な信頼関係を結んでいることが評価されたという。これは玄、齊藤をはじめとする法務部が積み上げてきた“契約”による功績も大きいだろう。

そのB Corp取得を主導した齊藤の入社経緯は、かなり異色だ。ヘラルボニーが30名規模だった2022年5月、齊藤が応募したのは店舗のアルバイトスタッフの求人募集だった。だが、新卒で企業法務大手のアンダーソン・毛利・友常法律事務所に勤務していた経歴を買われ、法務担当としての採用が決まった。

齊藤「私自身『できることはなんでもやります!』という気持ちはあったのですが、まさか法務とは思わなくて(笑)。まだ30人程度の組織でしたし、みんなが役職にとらわれずなんでもやる状態だったので、私の知らないところで『契約書を頼める人が今度入社するよ!』という話になっていたようです。私が歩んできたこれまでの経緯と、会社のやりたいことが交差していたのが、たまたまそういう役割だったということなんでしょうね」

齊藤が入社した当時のヘラルボニーは、急速な成長期にさしかかっていた。作家や施設との契約数が増え、企業とのコラボレーションも多様化する中、法的な体制整備は待ったなしの状況だったという。齊藤はコーポレート部門のメンバーとして、その基盤を一から築く役割を担うことになる。B Corp認証取得も、その歩みの先にあった。

財団という射程の長いルールメイク


一方の玄も、直近非常にユニークなプロジェクトを経験したという。2026年1月に発表した「ヘラルボニー財団」の設立だ。株式会社としての既存事業だけではアプローチしきれない、さまざまな障害当事者、当事者家族および支援者と向き合うためのものである。

前職でストラクチャードファイナンス(資産やキャッシュフローを裏付けとした仕組みによる資金調達)にも携わってきた玄の知見が大きく活かされるプロジェクトとなった。

「例えば、創業者一族が会社の所有権を非営利団体へ譲渡し、収益を気候変動対策に充てると宣言したパタゴニアは、ベンチマークの一つではありました。ただ、ヘラルボニーのように“まだこれから”の会社で財団を設立するのは、非常に希有なこと。一定のリソースを割かなければなりませんし、いくつも越えなければならない山がありました」

企業が非営利部門として財団を設立するのはしばしば見られることだが、非上場かつ創業10年に満たないスタートアップが設立するのは、珍しい事例だろう。財団の構想自体は玄が入社する以前からあったという。それを「上場後」という未来にせず、今に引きつけたのは同社の理念によるところが大きい。

「障害のある方々の中でアートを描ける方には限りがあり、それ以外を見過ごしたままというのは、ヘラルボニーの理念にも反します。営利事業として社会の価値観を変えるビジネスを推進しつつ、既存の事業モデルだけでは十分に目を向けられなかった方々にもアプローチすることは、本当の意味で社会を変えることへもつながり、ヘラルボニー全体の価値も高められる。そういった信念のもと、各ステークホルダーと合意形成できたのは、とても意義のあることだったと思います」

事業的に言えば、正直なところ数字だけで合理性を説明しきれるものではない。引いた目で見ればVCなど株主との合意形成は容易ではないようにも見える。しかし、それを乗り越えることこそヘラルボニーが向き合うべき挑戦なのだろう。

「この数十年間、経営と株主との対話が重要だと言われてきましたが、それはあくまで資本主義的な価値観に基づくもの。いかに収益を成長させていくかが議論の中心でした。ですが今回の事例のように、将来的に財団が株式を保有し、株主として経営に関与することになれば、これまでまったく福祉に関心のなかった投資家と、福祉領域の当事者とが同じテーブルで対話することになり得る。企業という社会の公器を活用することで、具体的なアクションとして社会課題へアプローチするための議論を進められます。財団がそうした議論を活性化し、理念を実現するための触媒として機能していくことを期待しています」

こうした射程の長いルールのデザインが、短期で目に見える成果を生むとは限らない。だが、この挑戦的な事例が生まれることで、中長期で何らかの変化が起きたり、先例として参照される可能性も出てくる。結果がすぐに見えるものではないからこそ、まず"実践する"意味は非常に重い。

作家、企業、社会と「信頼を編む」法務の役割


事業の拡大とガバナンスの進化を同時に推し進める中で、法務部が果たしている役割は想像以上に大きい。「法務部とは言いながらも、一般的な企業で法務には属さないような仕事もかなりやっている」と玄。

株主・投資家との対話、取締役会の運営、メーカーやコラボレーション企業など取引先との契約交渉、作家や福祉施設との関係構築……「法律」を軸に、さまざまなステークホルダーとコミュニケーションを図ってきているのはここまでも言及されてきた通りだ。

何のために法務部があるのか。その役割が明確に示されているのが、グループ名だ。法務部という枠組みには、3つの組織がある。取引先との契約交渉を主に担当する“Business Binding Group”と、取締役会や財団の運営に携わる“Governance Shaping Group”、そして作家や施設との交渉や関係構築を行う“Trust Weaving Group”だ。

「もともとよく『あれ、我々って何部だっけ?』みたいな話はしていたんです。一般企業の法務部のように、契約書のレビューをやって……みたいな領域からはずいぶん大きくはみ出している。通常の事業会社であれば、担当部署がヒアリングして、法務部がバックアップする、という役割分担ですが、我々の場合、法務の担当者が直接対話して、細かくヒアリングすることも多い。

そんなとき、当社の人事部が『組織デザイン部』と名乗りはじめたんです。確かに、人事の仕事ってそういうことだな、と触発されて。自分としても法務部という名称に違和感があったので、改めて考えてみたんです。例えば由美さんの仕事なら、作家さんやご家族、施設の方と信頼関係を築き、B Corp認証も社会との関係性を明らかにすることでもある。だから、“Trust Weaving”だな、と」

「信頼を編む」というグループ名の通り、Trust Weaving Groupでは新たに「施設・作家サポートチーム」を立ち上げ、施設や作家のニーズに合わせて最善となるコミュニケーションの確立に取り組んでいる。「契約」という枠組みを越え、作家や施設との関係性を丁寧に編みあげる試みだ。

齊藤「もともと当社のメンバーが一人ひとり担当窓口となっていたのですが、事業規模の拡大に伴い、作家やご家族、施設の方々の負荷が増えてきているのではないか、と社内から声が上がってきて。良い形でプロジェクトを進めていけるよう、どんな方法で連絡して、どこまで任せていただくか。それぞれの状況に合わせて、やり方を変えていけたらと尽力しているところです」

「ヘラルボニーでは、法務が“作家の方々の権利を守っている”という認識があります。だからこそ、私たちが企画提案に対して『作家さんの権利の観点からすると難しい』などと指摘しても『では、こんなやり方であればどうですか?』とディスカッションが進む。単にNoという存在ではなく、ともに理想の姿を模索する仲間としてうまく機能していると感じています」

誰もが理解できる「契約書」のUI


契約書はあくまで手続き上の形式で、固有性の高いものではない。そんな固定観念は、ヘラルボニーの法務部では通用しない。契約を結ぶ人によって契約書の形態は異なり、最適なフォーマットは変わってくる。それがヘラルボニーの法務部における「当たり前」だ。

例えば視覚障害のある人と業務委託契約を結ぶ場合、紙の契約書だけでは内容を判読することはできない。電子署名サービスを利用しても、音声ガイダンスがうまく機能しないこともある。こうした契約書のアクセシビリティにも真摯に向き合う。

齊藤「契約書の書面自体は通常通り作成し、契約締結を対面で行うことにしました。契約書を読み合わせながら確認し、署名する様子を動画撮影する。その動画の格納先を二次元バーコードで示し、契約書の原本に貼って両者が保管する、という流れです。

ところが当日、実際にやってみると、『どこをスキャンしたらよいかわからない』というご指摘をいただきました。『二次元バーコードのあたりに段差をつけてもらえないか』と。それで、周りにマスキングテープを貼り、スマホでスキャンする場所の目星がつけられるようにしました。こうした試行錯誤はよくあることで、なるべく契約する相手一人ひとりの状況に寄り添えるよう、取り組んでいます」

音声による入出力、直感的なUI、色覚特性に対応したカラーユニバーサルデザイン(CUD)……デジタル領域では年々進んできたアクセシビリティの改善が、こと契約においては、ますます複雑さを増している。

これは障害の有無にかかわらず、誰にとっても当てはまるもの。何気なく契約したサービスが、実は自身に不利益をもたらしかねないものだったと、後から知ることもある。こうした現実に対し、玄はこんな夢を口にする。

「いつか、自然言語によるものではない契約書を作りたいなと考えているんです。例えばタクシーに乗るとき、手を挙げて車を停めますが、あれは契約の意思表示にあたります。乗車して契約が成立し、目的地に到着すれば運転手の契約が履行され、代金を支払えば乗客の債務が履行され、契約が終了する。この一連の流れにはまったく文言がありませんよね。動作だけで完結する。

前職時代の上司が『契約書は、短ければ短いほどいい。必要十分な内容を最小限の文字数で表現している契約書は美しい』と話していましたが、そんな世界が実現できたらいいな、と。

お互いに何をやる義務があり、何をしなくてもいいか、契約内容が直感的に理解できるようなもの。動画なのかピクトグラムなのかは分かりませんが、新しい契約のデザインができないだろうか、と考えています」

世界が複雑になり、想定すべきリスクが増えれば増えるほど、単純な言葉だけでは説明できず、法的な正確性を担保するために専門的な言葉が増えていく。理解できなかったこと、見落としてしまったことは「自己責任」とみなされる。そんな世の中の常識を、ヘラルボニーは「アート」によってだけでなく、「ルールの力」でも変えようとしているのかもしれない。

玄の名刺には「BEYOND “LEGAL”」と記されている。既存の法の枠組みにとらわれず、やるべきことをやる。これまでも、これからも。それはヘラルボニーの法務部のあり方そのものだと言えるだろう。

Credit
取材・執筆
大矢幸世

ライター・編集者。愛媛生まれ、群馬、東京、福岡育ち。立命館大学卒業後、西武百貨店、制作会社を経て、2011年からフリーランス。鹿児島、福井、石川など地方を中心に活動。2014年末から東京を拠点に移す。著書に『鹿児島カフェ散歩』、編集協力に『売上を、減らそう。たどりついたのは業績至上主義からの解放』『最軽量のマネジメント』『カルチャーモデル』『マイノリティデザイン』など。

撮影
今井駿介

1993年、新潟県南魚沼市生まれ。(株)アマナを経て独立。

編集
小山和之

designing編集長・事業責任者。大学卒業後、建築設計事務所、デザインコンサルを経て独立。2017年designingを創刊。

Tags
Share