5年前「UIデザイナー不要説」を投げかけた人物は、今“問題提起”のデザインを志向する
デザインに力を入れずとも、日々数億円の売り上げをバンバン上げる。エンジニアが実装する機能に、デザイナーはビジュアルを当てるだけ。その現状に違和感を感じていた。
ここ数年、デザインの重要性が各所で叫ばれるようになった。
デザイン思考やデザイン経営等、各所さまざまな切り口でデザインを重要なトピックの一つとして捉えるようになっている。少なくともデジタルが主戦場となる事業領域では、デザインが一定の役割を担うことを疑う人は減った。ただ、それもここ数年の話に過ぎない。
5年前、この疑問に挑んだ人物がいた。
「UIデザイナー不要説」という逆説的なタイトルのブログで瞬く間に賛否を呼び、その反響から、第2回のUI Crunchに登壇。「UIデザインが不要とは思っていない。ただ、投資に対し短期的なリターンが得づらく、企業の意志決定として優先順位の下がる現状へ疑問を投げかけた」という言葉を残した。
この問いを投げかけた人物がTaiki Kawakamiだ。彼は、急激な変化を遂げたこの5年間をどのように見つめてきたのだろうか。現在はビズリーチのプロダクトデザイン室に籍をおきつつ、LSD™という名義で個人活動をする彼に、当時の話からそこに至るまでの背景、そしてこの数年間の変化を伺った。
(Sponsored by BIZREACH)
Taiki Kawakami
BizReach/LSD™
1985年東京生まれ、大分県出身。九州大学芸術工学部芸術情報設計学科卒業後、東京都に活動の拠点を移す。2017年ビズリーチに参画。ビズリーチ・キャンパスのリードデザイナーを務める。
UIデザイナー不要説が投げかけた“問い”
Kawakamiが「UIデザイナー不要説」を公開したのは2014年11月のこと。
きっかけは、当時ソーシャルゲームを開発する会社で勤める中、自身が感じたデザインに対する重要性の低さからだった。
「デザインに力を入れずとも、日々数億円の売り上げをバンバン上げる。エンジニアが実装する機能に、デザイナーはビジュアルを当てるだけ。その現状に違和感を感じていました」
ただKawakami自身、ここまで反響があると思って書いたわけではなかった。「皆、何かしら引っかかるものがあったのかなと驚いた」という。
Kawakamiがまとめた「UIデザイナー不要説へのリアクション」という記事を見ると、今のデザイン業界を牽引する重鎮を含め、多くの人々がリアクションした。いかにこの話題が大きな波紋を起こしたかを物語っている。
2014年は、スマートフォンの契約者数がフィーチャーフォンを抜いた年。モバイルでの体験重視が強まり、デザインは少しずつ注目を集めはじめていた。UI Crunchがスタートするなど、当時のデザイン業界は、デザインの重要性を各所に伝えなければという機運が高まっていた。
一方で、まだまだビジネスの現場へはその価値は伝わりきっておらず、理想と現実のギャップに苦しむ人も多かった。だからこそ、この記事は賛否双方の声を引き出したのだろう。
ソーシャルゲームのビジネスモデルに対する違和感
Kawakamiはどのようにこの問いを投げかけるに至ったのか。その背景を知るために、彼がこの問いを投げかけるまでを紐解いていこう。Kawakamiがデザインの道を志したのは、幼少期にまで遡る。
「美しいものに強い関心を持つ子供でした。ただ、絵が上手い兄弟の影響もあり、作ることより、“人がかっこいい、美しいと思うものに惹かれる理由”に強い興味・関心があったんです」
その理論を学びたいと考え、大学で九州大学芸術情報設計学科へ進学。理論から企画、コンセプトといったデザインの土台から、ビジュアルデザインからプログラミングといったデジタルデザインを生み出す技術まで、その全般を学んだ。
卒業と共に上京。デザインコンサルへ入社しデザインの基礎を固めた後、ゲーム好きだったこともあり、黎明期のソーシャルゲーム業界へ転職した。
当時はまだスマートフォンが普及し始めた頃。Kawakamiは、デザインから、体験設計、情報設計、時にはシナリオライティングなど多様なロールを経験した。
ただ、この業界は大きな変革期を迎える。「ガチャ」を軸とするビジネスモデルの台頭だ。
「入社して1−2年経った頃、ソーシャルゲームのビジネスモデルはガチャを中心としたものに集約していくようになりました。キャラクターの装飾やアイテム課金より、一定確率で強いキャラクターが当たる方がユーザーはお金を払う。開発体制も、新しいガチャを効率よく作れる方法に変化していったんです。ゲーム好きだったからこそ、その思い入れが反映させられない辛さがありました」
意思決定の軸が、ゲーム自体の面白さや使いやすさ、体験の良さではなく、いかに利益を上げるかへシフトしていることにKawakamiは強い違和感を覚える。数年働く中で、担当していた事業が別会社に売却されるなどの環境変化はあったものの、このトレンドは続いたという。
この頃に書き上げたのが「UIデザイナー不要説」だった。この数ヶ月後、Kawakamiはソーシャルゲーム業界を離れる。
軸を整理し、デジタルプロダクトへ挑む
単に“作ること”ではなく、“その理由”に興味を持った少年は、大きなうねりが起き始める時期に、“作る意味”を社会に問うた。そしてここからの数年間、デザインを取り巻く環境は大きく変化していく。
Kawakamiも、その中で様々な経験・変化を重ねていった。
退職直後はフリーランスとして働きつつ、自身が何をやるべきかの整理に時間を使った。その時に掲げたのが、「デジタルプロダクト」と「クリエイティブコーディング」という軸だった。
「デジタルプロダクトは当時のトレンドを受けたものです。ソーシャルゲームに携わっていた後半からアプリ等のデジタルプロダクトにおけるデザインが注目されるようになりました。この領域であれば大学で学んだインタラクションデザインが活きるのではないかと考えたんです。一方、クリエイティブコーディングは個人的な興味からです。コードがリアルタイムにビジュアルとして描画される面白さをより追求したいと思い、個人活動などで積極的に取り組んでいこうと考えていました」
この軸の元、自社サービスを手掛ける会社へ就職。アプリやWebのデザインを中心に経験を積み重ねていった。ただ、1年ほど働いた頃、Kawakamiはある提案を受ける。起業という選択肢だ。
「知人から、一緒にデザインの会社を作ろうという話をされたんです。デジタルプロダクトのデザインをしつつ、自社でもプロダクトを手掛ける会社でした。プロダクトの戦略から、デザインまでを一貫して挑戦できる。またとない機会に魅力を感じました」
提案してきたのは、個人で案件を受けていたクライアントだった。Kawakamiは学生時代から個人でいくつかのデジタルプロダクトを経験。最初に手掛けたTwitterクライアント『夜フクロウ』では、Twitter上で知り合った海外在住のプログラマと共にオンラインのコミュニケーションだけで作り上げ、当時爆発的な人気を得た。
今回のクライアントとは、UI Crunchでの登壇を機に知り合った。共にデジタルプロダクトの開発に携わった経験もあり、信頼できる人物だったのも後押しした。
2016年、Kawakamiは、NoDE Inc.の創業に参画。自社サイトをはじめ、自社プロダクトのiPad用スケッチアプリ『Bluprint』等のデザインに携わり経験を積んでいった。(※後にアプリの権利はKawakamiに譲渡)
デザインとエンジニアリングのバランスからビズリーチへ
ただ、転職先の会社でも、NoDEでも少人数ならではの課題にぶつかった。体制の脆さだ。
「デザインは僕が担当できるのですが、他のパートはどうしてもそれぞれの専門の方に任せる形になります。この2社では開発がネックになりプロダクトが止まってしまうことがありました。デザイナーは、エンジニアがいなければ世の中にプロダクトを届けられない。それを改めて実感したんです」
2社共で、プロダクトを世に届ける難しさを感じたKawakamiは、改めて開発体制が盤石な環境に身を置くことを考えた。そこで出会ったのがビズリーチだった。
「当時のビズリーチは強固な開発体制を元に、デザインに力を入れようとしているフェーズでした。ちょうど現CDOの田中さんが入社する直前くらいの時期ですね。エンジニアリングの力と、デザインを重視しようとする意志のバランスの良さを感じました」
2017年3月に入社後、KawakamiはOB/OG訪問ネットワークサービス『ビズリーチ・キャンパス』の担当になる。スクラムチームにデザイナーとして入り、アプリのUIからウェブまで、一連のデザインにコミットしていった。
「ビズリーチ・キャンパスは、本来『学生が主体的に早い段階からキャリアを考え、自立して良いファーストキャリアを選んもらうサービス』なのですが、それに合わせた機能や見え方が伴っていなかった。僕は開発に携わりながら、徐々に事業やサービスの理解を深め、どのようにこの課題を解いていくかを考えていきました」
リニューアル・社内活動が社内賞へ
開発にコミットし成果を積み上げた頃、この課題を解決するのに絶好の機会がKawakamiの元に舞い込んだ。リニューアルの計画だ。このリニューアルでは、社内外含め多様なステークホルダーがいること、社内でもプロダクト側と事業側の理解にばらつきがあることを加味し、デザインスプリントをプロセスに盛り込んだ。
「PMやエンジニア、マーケティング、セールス、事業部長、ユーザーサポートなど......。多様なステークホルダーを巻き込み、認識を摺り合わせ、今後のあり方やロードマップを整理したいという想いがありました。そのために5日間、じっくりと議論しプロダクトと向き合う機会をつくりました」
これまでビズリーチ社内にはデザインスプリントの経験がなかった。5日間という長期間を抑えるのに、準備には苦労した部分もあったという。
設計したプログラムは、1日目に課題の特定、2日目にアイデアだし、3日目に制作するアイデアの決定、4日目に制作、5日目にユーザーテストというもの。普段はあまりコミュニケーションを取らないメンバーも積極的に巻き込んでいった。
ここで上がった課題や社内の認識を元に、OB/OG向け、学生向けアプリともリニューアルを実施。Kawakamiはデザインスプリントのアウトプットを生かしつつ、包括的にそのプロセスを担当していった。
このデザインスプリントの取り組み、およびKawakami自身のアウトプットへのこだわりは、社内賞受賞にもつながった。
Kawakamiは、ビズリーチ・キャンパスだけでなく、社内で収録しているPodcastのロゴデザインや、Design ScrambleでのVJパフォーマンスなど、ビズリーチという土壌を活かし、活躍の場を広げていた。その点も評価の対象になったという。
ただKawakami自身はこの評価を少し客観的に見たいという。
「もちろん嬉しかったです。ただ、ビズリーチという環境が自由に挑戦することを許容してくれる風土があるからこそ、下駄を履かせてもらい、色々やれている。それ自体はありがたいものの、慢心してはいけないという思いも強いです。自分は決して技術がある方ではないですし、世界中のデザイナーを一列に並べたら相当後ろの方だという自覚がある。改めてもっと学ばなければと強く感じた機会でした」
デザインの概念自体が拡大・抽象化した5年間
UIデザイナー不要説から、ビズリーチ・キャンパスのリニューアルまで、5年弱。Kawakami自身多様なキャリアを歩み、本人は謙遜するが、着実に成果も上げてきた。
一方、社会全体は、スマホアプリの台頭によるUI,UXを重視する機運の高まりから、デザイン経営へと、デザインが大きくプレゼンスを向上してきた。当時、あの問いを投げかけたKawakamiはこの5年をどのように捉えてきたのか。この問いに、同氏は「デザイン自体の変化が大きい」と語る。
「デザイン大事ですよとは言われ続けていますが、その当時に大事だと言われてたデザインと、いま大事だと言われてるデザインは別物な印象があります。当時言われていたのは情報設計や、インターフェイスといった形あるもののデザインが中心でした。それが、いまはマッピングやプロトタイプを通した社内の共通認識作りや、ビジネス・エンジニアリングの越境などだいぶ抽象的になってきた印象があります」
デザインという概念自体が抽象化する中、Kawakami自身も、形あるアウトプットの仕事から、デザインスプリントを通したチームのコンセンサスなどデザインする領域を拡大し、その変化を肌で感じてきた。
「周辺を見ても、ノウハウが体系化されてきたことで、求められる機会も、話を聞く機会も増えましたね。正直、抽象的なデザインはあまり得意でない意識もあるのですが、仕事上求められれば積極的に取り組むようにし、今日まで学び続けている状態です」
今注目をする“問題提起”の必要性
デザインが広義に扱われる一方、ここ1-2年は課題解決としてのデザインやデザイン思考の限界が語られ、価値創造や意味のイノベーションなど、デザインが担うべき「次の役割」が問われている。
Kawakamiに「この状況をどう捉えているか」と問うと、次に目指すべき姿として、ある領域に関心をもっていると語った。
「僕はいま問題提起に興味があります。“問題提起”という言葉をどう解釈するかは様々ありますが、僕はこれをコンセプトや目指すべき姿を作れる能力と捉えています。よく、デザインは課題解決で、アートは問題提起と言われますが、最近目にすることも増えたアート思考はこの領域に近いかも知れません」
英・RCA(Royal College of Art)教授のアンソニー・ダンが提唱したスペキュラティブデザインも、未来のあり得る姿を想起し“問い”を立てる問題提起のデザインだ。BIOTOPEの佐宗邦威も、個人のビジョンの具現化を目指す手法として、“アート思考”に言及している。
この10年ほどでデザインが担う役割も、社会からの捉えられ方も大きく変化を重ねてきた。その中で、単にかっこいいものをつくることではなく、“かっこいい、美しいと思う理由”に興味をもちデザイナーを志したKawakamiは、改めて、表層ではなくその裏にある本質に向き合おうとしている。
「問題提起はアウトプットの裏にある本質でもあります。長らくものごとの表層よりも、その裏にある本質や骨格のようなものに興味を持ってきたからこそ、いま改めて、その問題提起を深めていきたい思っています」
(Sponsored by BIZREACH)