リーダーシップは、リーダーだけのものではない——サイバーエージェントのデザインチームは、誰もがクリエイティブ・マネジメントを目指す

2019年2月22日、株式会社サイバーエージェントが主催する『CA BASE CAMP2019』が開催された。本イベントは、同社が2018年にスタートしたエンジニアやクリエイターによる社内技術カンファレンスの第2回目だ。

『クリエイターのマネジメントとは何か?組織と個人を強くする仕組みづくり』と題したセッションでは、新規プロダクトデザインチーム『CAFS』のリードを務める井上辰徳氏が登壇。組織に所属するメンバー全員が身につけるべき「クリエイティブマネジメントスキル」について、その背景と目的や、サイバーエージェント内での活用例などが紹介された。

マネジメントスキルは、なぜ「全員が持つべき」なのか?

CAFSへ着任した当時、井上氏は「リードデザイナーやデザインチームリーダーのゴールは、果たして本当にマネジメントなのか?」と疑問を感じていた。昨年のCA BASE CAMPで行なったトークセッション『デザイナーが伸び悩まないためのスキル27分類』では、デザイナーの成長フェーズを「初心者」「3年目以降」「シニアクラス」と分類し、それぞれのフェーズにいるデザイナーが持つべきスキルを9つずつ提示した。

デザイナーが伸び悩まないためのスキル27分類
https://speakerdeck.com/inoue_tatsunori/dezainagashen-binao-manaitamefalsesukiru27fen-lei
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その中で、シニアクラスが持つべきスキルを「リーダースキル」と定義。スキルセットを9つに分解して提示したが、この「リーダー」という言葉への違和感が拭えなかったという。

「多くの場合、リーダーには『リーダーシップ』が求められ、リーダーシップにはマネジメントという役割が含まれている。リーダーシップを発揮するシニアクラスデザイナーは必然的にマネジメントも担当することになりますが、彼らのゴール=マネジメントで本当に良いのかと疑問をいだいていたんです」

そこで井上氏は『リーダー』と『リーダーシップ』を一旦切り離し、『リーダーが持つべきスキル群』だったものを『クリエイティブマネジメントスキル(以下、CMスキル)』と捉え直してみた。すると、「このスキル群はリーダーだけでなく、チームの誰もが持つべきスキルだ」と気づいた。

その視点で「CMスキル」を再整理していく中で、CMスキルには、「リーダーシップ」だけでなくその逆である「フォロワーシップ」も包含されると井上氏は考えた。

「フォロワーとはリーダーを補佐するメンバーのことを指します。フォロワーシップは、リーダーに従うだけでなく、リーダーの間違いを指摘したり、自発的に意見を述べたりと、集団の目標達成に向け行動するマインドのことです。

単にリーダーについて行くだけでなく、フォロワーシップを発揮し、メンバーが個々の考えに基づいてリーダーや他のメンバーをアシストしながら目標達成を目指す状態を指す。デザイナーには『他人の満足が自分の満足になる』というモチベーションを持つ人が多い。これがフォロワーシップだと気づいたんです」

メンバーの能力を引き出すクリエイティブマネジャー

CMスキルは全てのデザイナーがもっておくべきだと井上氏は考えた。ただ、あくまであらゆるスキルセットを網羅する人はいない。そこでAbemaTVやAmebaといった、サイバーエージェントの代表的なメディアサービスを担うメディア事業部では、CMスキルを特に強く持つ人を、クリエイティブマネジャー(以下、CM)という職位として定義している。

事業部では、規模や種類を限定しないさまざまなプロジェクトを担当するが、チームメンバー個々人が持つスキルセットは様々だ。CMはその中で、チームの統率とアウトプットクオリティの最終責任の担保という2つを目的として設置されている。

「職位としてのCMに求められるのは、①事業視点②クオリティの責任③育成と評価、という3つの要素です。現在、事業部には僕を含め5人のCMが在籍しますが、この3要素の中でも彼らに特に求めているのは、3つ目の育成と評価の部分です。一人ひとりのメンバーと向き合うことが、CMの価値と考えています」

メディアチームでは、CM育成のために定期的な合宿も実施。メンバーとのコミュニケーションやメンバーとCM自身のマネジメント、デザインに対する効果的なフィードバックの仕方などを学ぶという。

育成と評価を重視しているという言葉通り、CMが主に担うのは、1on1の強化と、個々の目標設定、達成に向けた進め方を決めるAwake会議の実施がメインとなる。特に1on1では、メンバーのスキル開拓を積極的に支援している。

「これまでの1on1は、目標を設定して達成までの振り返りやタスク管理、コンディション管理を中心に、進捗を追っていくベーシックな方法でした。しかし、今はそのメンバーの現在の興味や動機を過去のものと対比しつつ『過去から現在にかけて継続していることは何か?』『やりたかったけれどできていないことは何か?』を一緒に掘り起こすことで、次の目標設定をサポートしています。これらの問いに、自己価値やビジョンが隠れている可能性が高いからです」

Awake会議は、個々人にとって必要なスキルを洗い出した上で「覚醒できる状態を作るにはどうしたら良いか?」を考えるために行われる。WhatのためにHowを打ち出すためのものと言えるだろう。1on1とAwake会議を反復することで、CMはチームメンバーを日々後押しし続けているのだ。

CMは「縦のマネジメント」、MCは「横のマネジメント」

CMを「縦のマネジメント」と表すのであれば、メディア事業部には「横のマネジメント」も存在する。

それが「MC」だ。これは略称ではなく、そのまま「司会者」という意味のMCを指す。メディア事業部に所属するおよそ80人のデザイナーをシャッフルし、「ハングアウト」と呼ばれる10人前後のグループに分割。MCはそのハングアウトを運営するリーダー的ポジションとして、定例会議や勉強会などを開く。

「MCはそれぞれのハングアウトで、メンバーが最近何をしているか、どんなことに興味を持ったか、どんな新しいツールを使い始めたかなどの情報収集を行います。そして各グループやMC同士の集まりにその情報を持ち帰り、トピックを交換する。こうしてメディア事業部内で情報が有機的につながる仕組みを作ることが、ハングアウトの目的です」

ハングアウトを立ち上げた原点は「きっかけが見つかる場所」作りを目指したことにあるという。

誰かの発言が誰かの気付きになるという連鎖を起こすために、各ハングアウトではMCがオリジナルのイベントや勉強会などを考案。何をするかはそれぞれのMCに任されており、デザインの共有会や読書会、最新技術の見学会など、さまざまな催しが行われる。

個と全体が有機的に連動し成長する組織へ

デザイナーの組織化は各社まさに模索を続けている段階だ。サイバーエージェントのCMやMC、フォロワーシップとリーダーシップもあくまでその試行錯誤のひとつ。参考にできる部分もあれば、文化の異なる場では、そのまま採用するのは難しい部分もあるだろう。

ただ、正解のない領域だからこそ、こういった試行錯誤の繰り返しが大きな価値につながっていく。サイバーエージェントもまた、あくまで日々模索を続けている中だ。

セッションの最後、井上氏は自社での経験を踏まえつつ、メディア事業部内のデザイナーマネジメントについてこう締めくくった。

「個々のデザイナーの成長機会の創出や、成長環境の実現は我々自身向き合い続けなければいけない大きなテーマです。この問いを考えるために、リーダーシップやフォロワーシップなど、様々な角度からの挑戦を続けています。今回紹介したCMスキルは、複合的な視点から人の成長を支援するスキルです。特定の役割を持つ人だけが身につけるのではなく、メンバー全員が身につけることで、個としても全体としても、より強いチームが完成するのではないかと考えています」

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