熱量を生み出す、関われる余地のデザイン──Featured Projectsをグラフィック・空間の視点から振り返る

誰もが関われる余白があることで、お祭りのように夢中で楽しめる。

「その場所」「その瞬間」に集まるからこそ得られる価値とは、いかなるものだろうか。

それは、人やものと新しく出会う機会であり、その場所に生まれる熱量ではないか──2023年4月に初開催され、二日間で4,800人を超える来場者を記録したデザインの祭典「Featured Projects」の根底にはそうした考えがある。

私的な“熱”こそが、創造性の名のもと才能をつなぐ——Featured Projects始動
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出展者や登壇者、参加者が出会い、お互いに“よいものづくり”に関わる人として垣根なく交流する。トークセッションやワークショップ、マーケットなどにおいて意見を交わしあう。そして、その瞬間に立ち上がる化学反応を楽しむ……Featured Projects当日の会場には、そんな熱量が生まれていた。

オンラインイベントが普及した昨今、リアルイベントならではの熱量は、いかにして生み出せるのだろうか?

今回、Featured Projectsの場づくりを統括したのは、空間デザインを担当した空間・プロダクトデザイナーの西尾健史、全体のアートディレクションからグラフィックまでを担当したデザイナー・山口萌子だ。「場」に集まる人々の熱量を最大限に引き出すデザインについて、二人に聞いた。

関われる余地を生み出すグラフィックデザイン

今回、ポスターや、会場内各所のサイン、当日のスタッフウェアまで、Featured Projectsのグラフィックデザインは多岐に及んだ。それらを幅広い範囲にわたって手掛けたのは、日本デザインセンターに所属するデザイナーの山口だ。

デザイナー 山口萌子|『Featured Projects』グラフィックデザイン、アートディレクション担当

まず言及すべきは、キービジュアルだろう。イラストレーター・前田麦が作成したイラストに、山口がタイポグラフィや色を組み合わせ、イベント全体を包括する方向性を指し示す羅針盤となったものだ。そのデザインの意図を山口は次のように振り返る。

山口「最初に見せられた前田さんのイラストがとても素敵で。だからこそ、そこにさらに綺麗な文字を当てると、洗練された雰囲気になりすぎると思ったんです。見る人の記憶に残すためには、『お洒落でエレガントなビジュアル』以上のインパクトが必要。逆に少しだけラフに崩した方がいいと考えました。

そこで、絵の具のような5色のエレメントや手書き感のある書体、重なり合うレイアウトなど、躍動感と、いい意味で“垢抜けすぎない”ことを意識しました」

写真提供:日本デザインセンター岡庭璃子

そして、最初に目にするであろうWebサイトから、当日の会場へとイメージをできる限り一致させるための検討を重ねていった。

前田のイラストを中心に、Featured Projectsに関わるクリエイターたちが輝くためには、いかなるコンセプトが必要か。ここでヒントとなったのは、Webサイトで採用された、手描きで「自分のものにできる」というコンセプトだった。

参加者が「描き込みできる」とは、言い換えれば自分の手で関与できる余地や関わりしろがイベントに存在するということだ。山口もこのイメージを咀嚼し、当日のサインなど他の形にも落とし込んでいったという。

山口「今回はWebとグラフィック、空間とがそれぞれで動いていたのですが、それぞれのタッチポイントで印象が異なるのは避けなければいけません。携わるクリエイターのみなさんと媒体の特徴を活かしつつも、共通の形にしたいと考えていました。そこでキービジュアルとサインが接着剤のような役割を果たせたら、と。

例えばいつもなら媒体を通して統一するようなカラースキームも、背景色のベージュはキープしつつその対となる色は白になったり黒になったりとある程度柔軟に設計しました。それは一つのチャレンジでしたが、いい形になったと思っています」

写真提供:日本デザインセンター岡庭璃子

写真提供:Featured Projects

“大きな制作スタジオ”感を呼び起こす空間デザイン

一方、このイベントにおいて会場構成から、マーケット、展示、受付等を含めた会場装飾全般など空間デザインを担当したのが西尾だ。氏はこれまで「TOKYO ART BOOK FAIR」の会場構成や、さまざまな展示空間、店舗のインテリアデザインなども手がけてきた。

空間・プロダクトデザイナー 西尾健史|『Featured Projects』空間デザイン担当

今回のイベントでは、会場となったコクヨのオープンオフィス『THE CAMPUS』という特異な空間を最大限活かしつつ、その上にFeatured Projectsらしさをバランスを取りながら載せていった。西尾は、言わば“少し癖がある”空間をうまく活かすことで盛り上がりを演出できたのではないか、と語る。

西尾「今回は会場の性質上、Featured Projectsのためにゼロから世界観を作り込むことは難しい。そこで、最初から備え付けられているものをよく見せたり、空間のユニークさをうまく活かしたりすることを心がけました。

例えば、オフィスとしての機能も持ち合わせるTHE CAMPUSでは、KOKUYOの製品ショップやカフェ、本棚などが常設されています。空間の色をなるべく消さないように、これらの店舗はできる限り残し、むしろクリエイターズマーケットの一部として機能させることで、我々が頑張りすぎなくても良質なものが溢れている空間になった。それが会場全体の盛り上がりを生み出す一助になったと思います」

実際、当日KOKUYOのショップではマーケット同様に商品を手に取る人も多く、ノベルティとして配布されていたTHE CAMPUSのステッカーを持って帰る人の姿も数多く見受けられた。

写真提供:Featured Projects

さらに、空間デザインで工夫した点として、随所で活用したスチールラックを挙げる。

スチールラックを活用するメリットはさまざまだ。既製品を使用することでコストダウンを実現しながらも、会場全体に“大きな制作スタジオ”さながらのインダストリアルな雰囲気を演出できる。さらに、多くのイベントで行われるような「作って壊す」ことを前提に施工するよりも、ゴミを減らせるという見方もある。スチールラックは汎用品のため、容易に組み立てができ、再利用しやすく、実際にイベント終了後には欲しい人に持ち帰ってもらうことで廃棄せずに済んだという。

また、施工時にしっかり固定するよりも臨機応変に動かしやすいというメリットもある。今回のイベントでは、山口が制作したサインの一部をスチールラックの中に配置していたが、初日に天候が荒れた際に屋外にあるサインをすぐ屋内に移動させられたという。

写真提供:Featured Projects

熱量を喚起する“抜け感”

Featured Projectsで特徴的だったのは、多くの来場者が出展者と近い目線で「どうやって作ったんですか?」といった会話を繰り広げていたり、トークセッションの登壇者が参加者として別のプログラムを楽しんでいたりと、来場者と登壇者、出展者の境界が溶け合っていた点だ。

登壇者や出展者が洗練されたものを提示し、それを来場者が受け取る……そんな明確に線引きされた関係性ではなく、その場にいるあらゆる人々が“ものづくりにかかわる人”として尊重される。こうした雰囲気を、「あえて作り込みすぎない」ことで生み出そうとしたと両者はいう。Featured Projectsを通じて認識した“抜け感”の大切さについて山口は次のように語る。

山口「美術館などで恒久的に使うサインでは、デザインの段階でかなり細かく仕様や施工方法を決めていくことが一般的です。しかし、Featured Projectsでは当日のスタッフや出展者などと協力し、現場で判断しながら作り上げていく要素が想像以上に必要となりました。だからこそ結果的に、良い意味で“抜け感”が生まれたのだと思います」

とりわけ、Featured Projectsのイベント準備や当日スタッフを担当したのは、主にSNSでの公募などを通じて集まったボランティアのメンバーたちだった。イベントの施工作業などは初めてのスタッフも多いなか、みんなで熱量を持って作り上げていく過程は、積極的に関わっていく余地をスタッフに生み出した。すなわち、「自分たちが作っている」という感覚を生み出したのではないかと山口は振り返る。

山口「Featured Projectsの雰囲気は、作り込まれた“展示”というよりは、どちらかといえば文化祭や芸術祭に近いと思うんです。誰もが関われる余白があることで、お祭りのように夢中で楽しめる。それが結果的に愛されるイベントになった要因になったのではないかと思います」

会場内にはソファや椅子などが随所に置かれており、来場者は思い思いに時間を過ごしていた|写真提供:Featured Projects

運営やスタッフだけでなく、インタラクティブに関われる余地は随所に見られる。その象徴的な表れは、Webサイトに描き込みができるという仕組み、そして会場内に設置された「よいものづくりボード」だ。

西尾「このボードは、現場を見ながら即興で作り込んでいったんです。会場を設営する中で、余った段ボールに『あなたにとっての“よいものづくり”とは?』と書き込んだことから膨らんでいきました。そして当日は、想像以上に書き込みされて埋まった。来場者みんなから、『関わりたい』というポジティブな実感が得られたシーンでした」

写真提供:Featured Projects

「使い回し」が実現する、廃棄物の大幅削減

かくいう西尾も、Featured Projectsへの自分なりの関わり方を模索していた一人だ。

今回の空間デザインにおいて、裏テーマとして西尾が掲げていたのは「廃棄物をなるべく出さない新しいイベントづくり」。これは「よいものづくりは、明日を拓く」というFeatured Projectsのコピーを、「自分ならどう捉えるか」と考え続けた結果生まれたテーマだった。

西尾「展示会やイベントでせっかく何かを作っても、最終的には廃棄しなければならない。それはもったいないし、時代にも相応しくないのではないかと常々思っていたんです。終わった後にモノを廃棄という形ではなく、別の何かに変換することはできないか。例えば、イベントが終わったら使った什器の一部を次の誰かのものづくりの環境に託し、家でイベントを振り返れる余韻を残す品物にするなど、さまざまな方法を考えました」

とはいえ、「ゴミを出さないこと」を優先するあまり、再利用可能な素材ばかりを用い、チープな質感になってしまっては本末転倒だ。例えば、ゴミを減らすという方向で素材を検討した時に真っ先に候補に挙がるダンボールは、什器としての安定性に欠け、チープな印象を与えてしまいやすいという課題がある。

そこで西尾が見出した打開策が、先程も触れたスチールラックの採用だ。予算がかからず、使いやすいサイズ感の既製品として誰かに渡して使ってもらいやすい。会場全体に「クラフト感」を表現できるといった点からも、ベストな判断だったと振り返る。

西尾「スチールラックに合わせて、会場全体のイメージカラーも黒っぽい色に変更しました。本当にウェブサイトに忠実に合わせるのであれば、白やベージュのような色を基調に空間のトーンを統一していくべきだという意見もあるでしょう。しかし、当初検討していたダンボールは白やベージュのような色との相性が悪く、THE CAMPUSの空間にも馴染みすぎる。だとすれば、いっそ黒いスチールラックを導入して、会場全体の色彩のトーンをそれに合わせていこうと考えたんです」

展示エリア|写真提供:Featured Projects

次回以降もFeatured Projectsに携わる機会があれば、さらにゴミを減らす方法も検討しているという。その一つは、「借りてくる」こと。スポンサー企業などと提携して一時的に借りることができれば、そもそもの廃棄をゼロにできる可能性がある。

今回もFeatured Projectsでは「Creative Sponsor」という枠のもと、さまざまなスポンサー企業から物品や技術を提供してもらうなどの関係性を模索している。例えば、スタッフの白いワークシャツはGMOペパボのオリジナルグッズ通販サービス「SUZURI」による提供。また、「FONTPLUS」、「Monotype」からは、日本語フォントの使用権を提供してもらった。

西尾「こうしたスポンサードの枠組みを拡張し、例えばスチールラックや什器なども借りることができれば、さらにゴミを減らすことができるはず。また、他のデザインイベントなどと協業すれば、『什器を使い回す』といった試みも考えられますよね。Featured Projectsを一つの独立したイベントとして考えるのではなく、コラボレーション・連携を前提にイベントの方法を考えていけば、まだまだできることの幅は広がるはずです」

一人ひとりの「尊重」感覚こそ、クリエイティビティの土台

グラフィックと空間の両面から生み出された、運営や参加クリエイター、そして来場者が近い目線でイベントに関わっていく「余地」。しかし、グラフィックや空間といった目に見えるものだけで、そうした余地を生み出したわけではないとも二人はいう。

山口「一人ひとりの個性や強みが尊重されている、受け入れられている、『自分がやっていいんだ』という感覚を抱けることが大事なのだと思います。それは、相手を思い切って信じて任せることでもある。難しいことでもありますが、ある種の“おおらかさ”や“受け入れあう”といった姿勢が、より強いコミットメントに繋がるのではないかと思いました」

準備・設営から当日の運営まで、それぞれの「ものづくり」への想いを胸に集結した、総勢50名超のボランティアスタッフの協力と創意工夫に大きく支えられていたという|写真提供:Featured Projects

スタッフや出展者などのクリエイティビティが引き出されたからこそ、当日の熱気ある雰囲気が生まれたのだと西尾も振り返る。

西尾「空間デザインには、『どこまでが空間なのか?何をデザインするのか?』という問いがあります。例えば飲食店においては、家具やインテリアだけでなく、店員さんの接客も一つの心地よい空間の一部だと言えますよね。大切なのは、みんなが集まり、巻き込まれて立ち上がるような、広い意味での“空間”を作ることだと思うんです」

こうして“熱量を引き出すデザイン”を生み出してきた二人。これまで語られたような仕掛けの積み重ねが、オンラインでは実現が難しい、その場にいる人々がお互いの創造性を高め合う場に繋がっていったのだろう。

西尾「皆さんの周りに、“何が仕事なのかわからないけど、いつも面白いことを試している人”っていませんか?創造性が豊かで、かっちりとした枠組みにはハマらず、なんだか面白い。そんな人たちが集まる空間には、自然とおおらかな空気が流れて、 “何かが起こりそう “自分も何かやりたい”という感覚が生まれます。

人をワクワクさせてくれる、創造性の熱が高まる空気感を、いかにイベントに再現できるか。そこにイベントクリエイティブの次の挑戦があるのではないでしょうか」

Credit
取材・執筆
石田哲大

ライター/編集者。国際基督教大学(ICU)卒、政治思想専攻。ITコンサルタント、農業用ロボットのPdM、建設DXのPjMを経て独立。関心領域は人文思想全般と、農業・建築・出版など。

撮影
今井駿介

1993年、新潟県南魚沼市生まれ。(株)アマナを経て独立。

編集
小池真幸

編集、執筆(自営業)。ウェブメディアから雑誌・単行本まで。PLANETS、designing、CULTIBASE、うにくえ、WIRED.jpなど。

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