【翻訳】“意味”を持ったプロダクトをデザインするために

デザイン、エンジニアリングがどんなに優れたプロダクトであっても、人々にとって意味が無いプロダクトは存続できない。

本記事は、Brian Pagán氏が、Notewortlyに寄稿した記事『How to Design Meaningful Products』を公式に許可をいただき翻訳したものです。

どんなに素晴らしいデザインであったとしても、プロダクト自体が意味があるものでなければ、成功はしない——。

人は何のために生きているか。我々は画面をスワイプし、モノを購入し消費するためだけに生きているのではない。生活し、愛し、「人間らしくあるため」に存在している。ゆえに、プロダクトは「人間らしい在り方」に貢献するものでなければならない。そうあることで、プロダクトやサービスは“意味のある”ものになる。しかし、そのプロダクトが意味を持つか否かはどのように判断すれば良いのだろうか。

本記事では、“意味”を持つプロダクトを作り出すために必要と思っている要素について私見を述べたい。常に優先されるユーザーに関する問い(ユーザー視点)、採用する手法(プロセス)、仮説を立証するもの(プロトタイプ)、そしてこれらを効果的かつ倫理的に遂行するためのガイドライン(行動方針)について言及している。

プロダクトが“意味”を持つ重要性

Foursquareをご存じだろうか? アプリ上で場所にチェックインして位置情報をシェアするあのサービスだ。

初めてFoursquareのアプリが登場したとき、人々は飛びついた。魅力的なデザインと、愉快で人を惹きつけるブランドを備えていたからだ。Foursquareのポイントシステムやメイヤーシップ、バッジは、当時のゲーミフィケーション(ゲーム上のシステムをゲーム以外の場にも応用すること)における事実上スタンダードとなった。

しかし、ほどなくして人々はチェックインをやめ、Foursquareはコアなユーザーだけが使うようになった(私もそのひとりではあった)。離脱したユーザーたちにその理由を尋ねると、みな一様に「このゲームには意味がない」と答えた。

こう答える人々にとって、場所にチェックインし、どこにいるかをシェアするのは意味がないことである。言い換えれば、彼らの人生に“意味”をもつものではなかったということだ。

一方で、SMS(ショート・メッセージ・サービス)は偶然にも成功を収めた。ただ、これはもともとエンジニアが携帯電話の接続をテストする診断ツールとして作られた機能だ。

タッチスクリーン以前のSMSを覚えている人は、数字のキーボードでメッセージを打つのがどれほどイライラすることか分かるだろう。"s"を打つのに”7"のキーを4回も打たなければならないのだから。

しかしそれほど面倒であるにもかかわらず、人々はSMSを手にした途端、携帯電話からメッセージを送るようになった。そして今や、テキストメッセージのない世界を想像するほうが難しい。

Foursquareは企業努力も虚しく失敗した一方で、SMSはなぜキラーアプリとなったのか? 理由は明快だ。Foursquareはデザインや開発、マーケティングにおいて正しい手順を踏んでいながら、一方で多くの人々にとっての“意味”とそれらが結びついていなかったのだ。

当時Foursquareを使わなくなった人々は、居場所をシェアすることが生活にどんな豊かさを与えてくれるのかがわからなかった。一方、SMSは人々の生活に大きく貢献したため、煩雑なインターフェイスにも皆我慢しながらそのうち慣れてしまった。SMSによって、人々は初めてインターネットに常時接続する必要のない、手軽で非同時的なのコミュニケーションを手にしたのだ。

SMSの成功以降、その発想は現在までさまざまな形態のメッセージアプリへと進化し続けている。Foursquareも、最終的にはシティガイドとしてサービスを方向転換し、人々が興味関心に応じた新しいレストランやバーや魅力的な何かを見つけるのに役立っている。また、チェックインサービスはSwarmという別のアプリへと姿を変え、(これを書いている時点では)企業は生き残り、うまくいっている。

では、価値のあることができているかどうか、あるいは、意味のある方法で人々の生活を向上させられているかどうかをジャッジできるようになるには、どうしたらいいのだろうか。

ユーザー視点の獲得

人々にとって何が意味のあることかを考えるには、彼らが何を考え、何を感じているかを知るのが第一歩だ。ここでは、ユーザー視点をリサーチするために考えるべき4つのポイントを紹介しよう。

1) 人々が求める喜びや楽しみとは何か
人が生活に求めるのはどのようなものか。何が人々を幸せにし、健全さを与え、自己実現を可能にするのだろうか。

2) 人々はどのような種類の苦痛を癒したいと思っているのか
生活において、減らすべきものは何か。人はどのようななものにいらだち、恐れ、痛みや怒りを感じるのだろうか。

3) 人々を抑圧するものは何か
人々はどのような壁に直面するのか。喜びを得ることや苦痛の回避を妨げるものは何か。

4) 私たちには何ができるか
我々がユーザーを理解したいと願うなら、そのために彼らとどのような関係性でいたいか。この理解も欠かせない。人々の目標達成や何かしらの遂行を支えるために、どんな能力や技術、情報、そのほか役に立つ何かを提供できるだろうか。

デザインプロセス

行動指針が意志決定の助けになるように、プロセスは行動を後押しする重要な役割を果たす。ここでは、意味を持つプロダクトやサービスを作り出すのに助けとなる、いくつかのデザインプロセスを紹介する。

キープロセス:リーンバリデーション

リーンスタートアップ、MVP(ミニマムバイアブルプロダクト)、バリュープロポジションデザインなどの方法論がバズワードとなっているがそれには理由がある。

これらは段階を経てプロダクトのバージョンをアップデートしていく戦略で、潜在顧客や潜在ユーザーにプロダクトを実際に使ってもらうことで、彼らがそれに価値を見出しているかを評価できる。

価値を感じてもらえているのであればがあると感じているようであれば、プ開発を続け、プロトタイプのテストを引き続き行なっていく。もし価値を感じてもらえないようであれば、方向性の転換を検討しなければいけない。

Lean Validation Cheat Sheet via The Greatness Studio

デザインリサーチ

かつてアルバート・アインシュタインはこう言った。「もし問題を解決する時間が1時間あるとしたら、55分はその問題について考え、あとの5分でその解決方法について考えるだろう」——インタビューやエスのグラフィー調査といった手法自体の目新しさはないが、プロダクトやサービスを提供する対象と彼らの抱える問題を理解するためには必要不可欠な方法だ。

共感を深める

人々から状況をヒアリングをするのはひとつの方法だが、それを自分自身で体験するのはまったく別のことだ。ゆえに、シュミレーション越しでも実際に他人の体験に自分自身が入り込めば、リサーチの情報よりもずっと深い直感的理解が得られるはずだ。

たとえば、MITには老化した身体をシュミレーションするスペシャルスーツがある。着用すると、関節痛や視力の低下を実際に体験できる。また国連では、シリアやコンゴの難民が抱える苦痛をリアルに体感してもらうためにVRを使用した取り組みを行っているそうだ。

キャラクターマッピング

ペルソナは、ある傾向を持つ人々のグループを表すが、たいていは新しいプロダクトやサービスの特定のユーザーグループということになる。しかし、これらは誤った使われ方がなされることも多く、可能性が十分に引き出されることは少ない。

そこで、筆者はペルソナの代わりにキャラクターを主に使っている。多くの場合、ペルソナは年齢や収入といったデモグラフィックデータをもとに作られるのに対し、キャラクターは目的や抱える課題をベースに個別の人物を想定したのだ。キャラクターは、ストーリーや背景を含めペルソナの人物像をを表わす。

Character Map Canvasvia The Greatness Studio

ジャーニーマッピング

ストーリーがあってこそ、キャラクターはリアルになる。そこで、私たちが提供しようとする新たなプロダクトやサービスが存在しない現状で、人々がどのように直面している問題に取り組んでいるかを説明するジャーニーマップを作る。

これを紙面に落とし可視化することで、人々が経験し、ギャップを感じていることを本当に理解できているかを確認できる。私は、視覚ベースのジャーニーマップキャンバスを用いて、基本的なプロセスはこれをもとに説明している。

Journey Map Canvasvia The Greatness Studio

プロトタイプ
一旦課題が明確になれば、次はソリューションの基本コンセプトを明確にする必要がある。そうすることで、得られた知見を伝えたり、仮説検証ができるようになる。ここでは、我々が意味があるものを作れているかを検証するいくつかの手法を紹介しよう。

バリュー・プロポジション・キャンバス
Strategyzerのバリュー・プロポジション・キャンバスは、自分たちのプロダクトのコンセプトと、ユーザーへの提供価値を測る枠組みだ。キャンバスなので、ふせんを貼るなど自由度も高く、共同ワークショップのセッティングや、さまざまな分野にわたるチームにおいて非常に使いやすい構造になっている。

ロールプレイ
ストーリーを通してキャラクターを表わす方法のひとつに、それを演じるという方法がある。ひとりがメインの人物を演じ、その他の人々ががプロダクトの役割を担う。

こうすることで、プロトタイプテストを受けた人々や、事業のステークホルダーがどのように感じるかをシュミレーションできる。このテクニックの実践方法は、ステファン・アンダーソンがこのビデオで解説している。

ビデオプロトタイプ
ロールプレイは手早く簡単にできるが、テキスト上で再現するのは難しい。計画と実行に少しのコストはかかるものの、ビデオプロトタイプを作れば多くのテスト参加者やステークホルダー、顧客にプロトタイプをシェアできる。2008年制作の古いものだが、私が学生時代に作ったビデオはこれだ

コンシェルジュMVP
ビデオプロトタイプはよく知られたMVPの手法のひとつだが、私がよく用いるのはコンシェルジュMVPだ。名前のとおり、プロダクトやテクノロジーを新たに作る代わりに、人を介して顧客へ価値ある提案を行う手法だ。これなら、最小限の投資で市場にアイデアを出すことができる。

起業家のバイブルとも呼ばれる"The Lean Startup"の中で、エリック・リースは、アパレルの通信小売店Zapposの創設者であるニック・スウィンマンを例に挙げている。最初、ニックはオンラインで靴を販売を考えたが、人々がそれを買うかは分からなかった。

そこで彼は靴屋で写真を撮り、それをオンライン上にポストした。ポストを見た誰かからオーダーが入ったら、店に戻って靴を購入し、注文者に発送した。

ニックにとって、顧客から見たZapposの価値は靴そのものではなく、「靴を届ける」というサービスだ。彼はコストをかけることなく仮説を検証した。現在Zapposは大成功を収め、質の高いカスタマーサービスで名を成している。

行動指針(プリンシプル)

指針は、すべての選択や決定における羅針盤となる。ゆえに、チームは同じビジョンのもとに共に前進しなければならない。

すべてのプロジェクトにそれぞれの行動指針がなければならない。行動指針は、プロジェクトのゴールや組織の価値、デザインに関する既成の方針や開発方針にも関連する。

ここでは、価値あるプロダクトを作る道を逸れることなく進むための4つの方針を紹介しよう。

常にオープンマインドを持つ
個人的にあまり意味を感じられないものだとしても、それは誰かの生活を劇的に改善するものかもしれない。仮説を検証する上で、データに対して常にオープンマインドでいなければならない。

批判的な目を持ち続ける:これはまだ意味があるだろうか
重要性を判断する感覚は鈍りやすい。特に、初期に成功体験をいくつか積んだ直後はそうだ。もし何か違うと直感的に感じたら、おそらくその勘は正しいだろう。

成功の中にある、不確実要素を考える
Airbnbは、家の中の使っていないスペースを収益へと変える仕組み作りに成功した。しかしAirbnbが普及したことで、特に大都市圏において住宅価格の高騰が激化した。

プロダクトが大成功を収めたのであれば、それがどのような影響や弊害を及ぼすかを予測し、場合によってはその緩和に力を注がなければならない。

人々のプライバシーと同意を尊重する
特に、顧客やプロトタイプテスト参加者に対しては、敬意あるコミュニケーションを常に意識しなければならない。もちろん、健全な関係性を築くことは大前提だ。

倫理的責任に無頓着であることや、持続性を無視した関係性の構築は決してあってはならない。また、人々のプライバシーを侵害したり、同意なく何かを行わせた場合、EUのGDPRをはじめとした法によって、厳しいペナルティを課されることとなる。

---

どんなにデザイン、エンジニアリングの双方が優れたプロダクトでも、人々にとって意味の無いプロダクトは生きれない。そして、人々は(最初は)イライラしたり、信用できなさいと思うプロダクトであっても、生活や人生をより良くする助けになると思えば、それを使ってくれるだろう。

Tags
Share