ソニー、製品開発プロセスに障害者や高齢者らの参加を規則化。誰もが使いやすいデザインの実現を目指す

何らかの課題を解決し、社会に好影響を及ぼすアウトプットを生み出すためには、優れたプロセスの設計と実践が欠かせない。言い換えると、優れたプロセスなくして優れたアウトプットは生まれ得ない。

デザインを評価したり、分析したりする上で、「アウトプットがいかに優れているか」は言うまでもなく検討すべき事項の一つだ。一方で、その背景にあるプロセスにまで目を向け、「それがどれほど優れたプロセスか」について対話や議論を続けていくこともまた、デザインのさらなる可能性を模索していく上では不可欠となる。

その意味で、ソニーが新たに起こしたアクションは、私たちがそのプロセスにこそ着目すべき取り組みの好例と言えるかもしれない。日経新聞によれば、同社は2025年度までに、原則全ての商品やサービスを障害者や高齢者に配慮した仕様にするという。そうした商品やサービスの開発プロセスについて、障害者らに商品企画・開発に参加してもらい、意見を取り入れることを2022年度中に社内規則化する。

プロセスを更新し、「誰もが使いやすいデザイン」の徹底を見据える


同社は、各商品の品質基準に「色の識別が難しい人向けに、リモコンの4色ボタンには文字を併記すること」などの項目を新たに設けることで、障害者や高齢者に配慮したデザインの徹底を目指す。2025年度までに、テレビや音響、カメラなどほぼ全ての主要商品の開発プロセスに同規則を反映するとしている。

こうした方針をすでにプロセスに取り入れ、最終的なアウトプットに反映された製品も存在する。たとえば「ウォークマン」の一部で音量ボタンに凸を付けることにより、利用者が手で触るだけでどこを押せばよいか分かりやすい仕様を実現した。その他にも、テレビの字幕音声読み上げ機能の実装や、イヤホンに地図データを音声で伝える機能の実装など、いくつかの実例があるという。

先行して数多くの製品を生み出してきたMicrosoftの事例


世界に目を向けると、ソニーの試みをより深く理解するための先行事例をいくつも発見できる。なかでも代表的な例の一つが、Microsoftによる取り組みだ。

同社はこれまでに、数多くのアクセシブルな製品やサービスを発表してきた。たとえば「Microsoft アダプティブ アクセサリ」は、運動能力や視覚において障害のある人々がコンピューターやラップトップをより使いやすくするために設計された。

また、「誰もがゲームを楽しめる環境をつくる」ことを目指し開発された「Xbox Adaptive Controller」は、きめ細やかな配慮や対応力の高さから、発表時に大きな反響を呼んだ。同製品は、2022年度グッドデザイン賞金賞も受賞している

Xbox Adaptive Controller(Images: グッドデザイン賞)

これらの製品の誕生背景には、役職や組織に関する試行錯誤があったはずだ。たとえば、同社は世界でも珍しく2010年にCAO(チーフ・アクセシビリティー・オフィサー)を設置した。上記で触れたような製品・サービスの開発プロセスに加え、障害者雇用の積極化にも責任を持つ役職だ。

また、同社はさまざまな障害者向け製品を開発する部門「Inclusive Tech Lab」を2022年5月から運営している。この部門は、2017 年に「Xbox」の開発チームがひらいたオリジナルラボの後継施設であり、より多くの人々のために学び、開発するという当初からの目的を引き継いでいるという

ここまでに紹介した製品の誕生に、こうした水面下での試行錯誤は不可欠だったはずだ。もちろん、技術力の向上や収益規模の拡大など、他にも数多くの要素が影響している可能性は否定できない。だが、組織づくりやそれを踏まえたプロセス設計にじっくりと継続的に取り組んできたこともまた、間違いなく影響しているはずだ。

Airbnbは独自ツールの開発を通じて、プロセスに「問い」を取り入れた


designingでは、過去にAirbnbの開発プロセスにおける独自の取り組みについても紹介した。Airbnbのプラットフォームで人種差別を引き起こさないために生まれた「Another Lens」は、デザイナーが自身のバイアスや差別を自覚するための質問と解説をまとめた同社独自のツールである。

Airbnbインクルーシヴ・デザイン・リードは「誰が取り残されているか?」を問い続ける
https://designing.jp/airbnb-inclusive-design
サイトを開く

同ツールの存在は、デザイナーが時々立ち止まり「誰を置いてきぼりにしているだろう?」などを常に問い直すことをプロセスに組み込むための、触媒のような機能を果たしているのではないだろうか。規則化のような形以外にも、こうしたツールが常にアクセス可能な状態で存在することを通じて、自ずとプロセス自体がアップデートされていく場合もあるかもしれない。

序盤で触れたソニーの新たな取り組みについても、今後どのような成果や製品の誕生につながっていくか注目したい。もちろん、試行錯誤をするからこそぶつかる課題も数多く出てくるだろう。ただそうした課題をどう乗り越えたかの部分にこそ、優れたプロセスがより当たり前のものとして広がっていくためのヒントがあるに違いない。そうした実践知の流通という観点からも、ソニーによる積極的なアクションが持つ意義は大きい。

Credit
執筆
栗村智弘

designingのメディア運営を担当。新卒でフリーランスとなり、ギルド型組織のモメンタム・ホースに所属。オウンドメディアを中心に、記事執筆やプロジェクトファシリテーションなどの実務を経験。2020年にインクワイアへ入社。企業のメディア運営や採用発信、複数のプロジェクトに携わりながら、designing編集部のメンバーとして活動中。

Tags
Share