セミセルフレジは、レジ待ちでなく、店舗の接客体験をリデザインする——グッドパッチ 國光俊樹 #UICrunch

2019年4月18日、『UI Crunch 14「スマートフォンを超えた体験を創る。導くUI」』が開催された。

デジタルデバイスが、日常のあらゆるシーンに溶け込み、我々は日々オンラインとオフラインを行き来しながら生活をしている。現在はオンライン上で主に扱われるUIも、オフラインと行き来する現代においては、画面の中だけを考えデザインをしていてはユーザーにとって適切なアウトプットは生み出せない場面も増えている。

今回のUI Crunchは、オンラインとオフラインを横断し、人々の行動へと繋げるUIデザインにフォーカス。オフラインとオンラインを横断するサービスに取り組む、4組のデザイナーが登壇し、「スマートフォンを越えた体験」をいかに生み出してきたかが語られた。

本記事では、株式会社グッドパッチのUXデザイナー・サービスデザイナー國光俊樹氏が登壇したセッションを紹介する。

「本質的課題」を捉え、解決のあり方を模索する

國光氏からは、同社が手がけた東急ハンズ新宿店のセミセルフレジサービスの事例が紹介された。

セミセルフレジとは、商品のスキャンまでを店舗スタッフが行い、精算は顧客自身がレジ横に設置された精算機で行うレジ。グッドパッチは、セミセルフレジ内のアプリケーションのUI,UXデザインを担当した。國光氏は、このサービスデザインにおいて鍵となった4つのポイントを発表した。

1つ目は「本質的課題を捉える」こと。同社が担うのはあくまでセミセルフレジの体験だが、抱える課題から紐解かねば、求める成果は引き寄せられない。実際売り場の従業員へのヒアリングや実店舗での調査を重ねると、ピークタイムにレジ待ちの列が常態化していること、それによって店舗スタッフはレジ対応以外の業務ができなくなっていることが本質的な課題として浮かび上がっていた。

國光

「店舗を実際に訪れ調査をすると、確かにピークタイムにはワンフロアを1周するほどレジ待ちの列ができていたんです。スタッフの負荷が高いのはもちろん、レジ待ちの時間によって、お客さんが『やっぱりやめよう』と、購買離脱に繋がることもありました。これは、お客さんにとっても店舗にとっても課題がある状態です。これらの課題の原因を辿ると『レジの回転率が悪い』ことに行き当たりました。」

レジの回転率が悪くなる原因は「支払い部分」にあった。合計金額が明らかになった後、顧客が財布を取り出し、紙幣や小銭を選別、場合によってはポイントカードや割引券を出す作業も発生する。このプロセスが回転率を下げる要因になっていた。セミセルフレジはその負荷を下げる役割として期待される。

國光

「セミセルフレジは、もっとも時間のかかる支払いフローを、一部顧客に任せることでレジの回転率をあげるものです。しかしお客さん側からしても面倒な作業はやりたくないはず。それをどのように簡単にし、親切に導いていくかが今回の課題でした」

取り組むべき課題が見えたところで、2つ目のポイント「リアルとデジタルが混在するサービスの型」へ話は展開していく。「リアル×デジタル」といってもその在り方は様々だ。

國光氏は、その在り方を3つに分類する。オンラインにおけるデジタルの役割とオフラインにおける人間の役割が完全に分けられる「リレー型」、オンラインとオフライン間で情報を参照し合い、常に同期・関係し合いながらサービスが成り立つ「混在・同期型」、オフラインという現実の中にデジタル端末が存在している「制約型」の3つだ。

デザインに取り組むには、それぞれ特徴を理解した上で、本質的な効果を見据えることが重要だ。

國光

「今回のセミセルフレジは制約型です。セミセルフレジに触れるユーザーは、それ自体の使用、つまりお金を支払うことが本来の目的ではありません。品揃えの豊富さや店舗スタッフの専門知識などを目的に東急ハンズに訪れ、その結果セミセルフレジを利用することになっている。

つまり、リアル店舗でしか受けられない体験をしに来ていると言い換えられます。その前提で考えると、セミセルフレジの目的は、お客さんが列に並ぶ無駄な時間を解消し、店舗スタッフが東急ハンズらしい接客サービスに時間を投資できるようにすること。結果、お客さんの店舗体験が向上する。それが本質的な価値になるのです」

3つ目は「リアルとデジタルの役割設計」だ。今回の事例でインタラクションするのは顧客とセミセルフレジだけでなはない。顧客と店舗スタッフなどにも接点が存在する。そのような複数のインタラクションを踏まえた上で、今回の場合は「セミセルフレジ」と「店舗スタッフ」の二者それぞれにしかできない役割を捉え、いかに役割分担するかが重要となった。

國光

「店舗に何度も足を運んだりスタッフの方からの話を踏まえて、役割分担を決めていきました。分担の鍵となったのは、変数の有無です。割引券やポイントカードの対応といった店舗やお客さんによって変数のある作業は、店舗スタッフが担当。現金やクレジットカードでの支払いといった変数のない作業は、セミセルフレジが担当することになりました」

デザインすべきは、セミセルフレジだけではない


最後は「サービスデザインの手段」について。セミセルフレジの導入によって、業務プロセスや店舗オペレーションに新たな課題を生んでしまっては、意味がない。あらゆるユーザーが触れるすべての対象や行動を事前に把握し、生じうる課題を潰しておく必要があった。

今回の事例ではサービスブループリントを利用。サービス提供側を含めたすべてのステークホルダー同士が、どのタッチポイントで、どのようなインタラクションをし、次の行動に移行していくのかを俯瞰できる状態を作り、生じうる課題を議論した。

國光

「セミセルフレジとの接点は、お客さんが会計するときだけでなく、エラー時に店舗スタッフが触る場面など、さまざまな人がさまざまなタイミングで触れることが想定されます。そこで、サービスブループリントを見ながら、店舗スタッフや本部の方、開発者など、ステークホルダーを一堂に会し、どこでどんな問題が生まれそうか議論。解決策の洗い出しや、エラー時のマニュアルを作成するなど、店舗を取り囲むあらゆるオペレーションにエラーが起きないよう細心の注意を払い導入を進めました」

この4ステップを踏まえ、セミセルフレジはデザインされた。セッションの最後、國光氏は、「ユーザーとはエンドユーザーだけを指すのではなく、あらゆるユーザーに対してしっかりと考えられたデザインをすることが重要だ」と語る。

オンラインとオフラインを横断したサービスでは、ついその両者をいかにつなぐかに目が行きがちだ。ただ、サービスやプロダクトに関わるのが、“実際に使う人”だけに限らない場合も少なくない。

そこへの想像力を失わず、真に価値のあるデザインを追求できるかが、実際に使われるプロダクトを生み出せるかを分けるのではないだろうか。