デザインファームを退職し、デザインを発信する会社を立ち上げました

2018年5月末日でデザインコンサルティングファーム『A.C.O.』を退職し、6月デザイン領域に特化した編集デザインファーム『weaving inc.』を立ち上げました。

所信表明も兼ね、なぜ起業するのか、なぜデザイン領域なのかといったあたりを少し長くなりますが、つらつらと書いていこうと思います。

デザインファームで編集者として働いていました

なぜ、デザインを発信するのか——その説明をするために、ちょっとだけ僕のキャリアの話をさせてください。キャリア全体感はこちらの記事が一番わかりやすいので、主に前職からの経緯を。

僕の前職、デザインコンサルティングファーム『A.C.O.』はコーポレートサイトを中心としたWebコミュニケーションの設計からデザインまでの上流工程を得意とする会社です。僕は編集ディレクター/プロジェクトマネージャーとして、コミュニケーション設計や、メディアの設計・企画・改善などを中心に担当していました。

手前味噌ながら、A.C.O.はとても優秀なデザインファームだと思っています。クライアントのほとんどが一部上場の大手企業。そのWebコミュニケーションの上流から携わっています。20名程度の規模の小さな会社がやらせてもらえるとは思えない企業の大切な局面やコミュニケーションを、デザインの力でサポートしてきました。(ちなみに、今年5月にモンスター・ラボに買収。)

デザインコンサルティング企業A.C.O.を子会社化いたしました
https://monstar-lab.com/ml-news/release_aco/
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ただ僕はA.C.O.で唯一の編集者で、もっと編集の経験を積みたいと考え、会社の就業日数を週3日に変更。残りの4日をinquireの編集者 兼 フリーランスとして働いていました。

デザインとビジネスをつなげる情報発信の必要性

inquireでは、編集者として主にビジネスとデザインを中心に編集に携わってきました。その中でデザインファームの代表や経営者の話を聞き、デザインの重要性と課題感を強く感じるようになります。特に印象的だったのは以下の2つの取材。

「企業や産業にデザインをインストールしていく」−−FinTechファンドなどより4億円を調達したグッドパッチが見据える課題
http://unleash.tokyo/2017/04/26/goodpatch-raise-400m-yen/
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デザインファームが見据える世界と未来と企業−−Takram×グッドパッチ×FiNCらが語るクリエイティブの「今と未来」【前編】
http://unleash.tokyo/2017/05/23/takram-goodpatch-finc_event-1/
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双方ともデザインの価値が期待される一方で、デザイナーの社会的地位の認知がまだまだ不十分であること。あらゆる企業へデザインをインストールするためには経営レイヤーからデザインをインストールする必要性があると語られています。

確かに同年代の一般的な会社員と比べるとデザイナーの給与が高いと言うことはなく、労働時間も短くはありません。「好きなこと仕事にしてるから」とよくいわれますが、賃金や労働時間といった定量的に価値を測る指標と、好きか否かは別問題です。デザインの価値が重要視され、各所でデザインファームが企業の重要な局面に食い込む姿を見る一方で、デザイナーは社会的地位も上がっているとは言いづらい状況でした。

諦めている人も一定数います。「社会的な評価が追いついていない」という話を年長の方にすると「給料上げたいならこの業界は辞めた方が良い」と言われたこともありました。

この課題に僕がアプローチできることは何かと1年ほど考える中ではじめたのが、note上で展開しているWebメディア『デザインビジネスマガジン“designing”』でした。

課題の解像度を上げ、僕のスキルセットと掛け合わせるなかで見えてきたのは、デザイン領域とビジネス領域をつなぐ情報発信が少ないことでした。デザイナーがビジネス領域へより入っていけるように、ビジネスパーソンがよりデザインの理解を深めるためにお互いを知るメディアが必要ではないか。そう考え、designingを立ち上げ、情報発信をはじめました。

プラットフォームとしては現状デザイナーが数多くウォッチしているnoteを使い、はや半年ほど。デザイナー向けの情報を中心で発信してきましたが、幸いにゆるりとした運用でもそれなりに数値は伸び、徐々にではありますが価値を積み上げられてきました。

デザインを“消費”する危険性と三方よしであること

一方、ここ半年ほどで、デザインに対する注目は徐々に高まりつつあると思っています。

実際、デザイン界隈以外でもデザインに関する記事を目にする機会が増えてきました。ただ、僕はその注目の集め方が“消費的”になっていつつあるのではと、若干危惧をしています。

“デザインが注目を集めている”——といっても、これはまだまだ社会全体で言えば小さなトレンドです。注目を集めるためには、多くの人にわかりやすくある必要性がある。そのために、編集意図や、ジャーナリズムという名のもとにわかりやすい「見せたい姿」に曲げられたデザインの情報も目にすることもありました。

これらの背景、僕がやりたいことと社会のフェーズを踏まえると、いま注力すべきは「デザインを適切に発信すること」そして「その総量を増やすこと」ではないかと考えました。

これまではデザインの現場に身を置くことも必要だと考えA.C.O.に席を置いていました。ただ、周辺状況等を省みたとき、よりデザインを発信する側にコミットすることがいま必要ではないか。そう思い、A.C.O.を退職。weaving inc.という法人を立ち上げました。

weavingでは主に2つの事業を展開します。

ひとつは自社事業であるデザインビジネスマガジン“designing”の拡大。フェーズに応じプラットフォームやマネタイズ方法は検討していく予定ですが、現状はここnoteのプラットフォームに軸足を置き、より発信量を増やすつもりです。僕自身メディアの人間として三方に価値を提供できるデザインの情報を流通させていければと考えています。

もうひとつは、デザイン領域での情報発信の支援です。デザインをより理解してもらうためにも、多くの場所でデザインを考える機会を作ることが大切だと思っています。そのために、さまざまなデザインに携わる人が情報発信できるよう支援していきたいと考えています。具体的には、デザインファームやデザイン組織を対象とする情報発信の支援。社内の発信体制構築の支援、内製化支援などを含みます。

現在inquireで携わっているtsukuruba studiosの自社メディア『remark』の運営伴走や、デザインファームroot inc.の発信支援、そのほか何社かでやっている採用広報におけるコンテンツ設計・編集業務などは近しいものです。

無論、「見せ方を工夫すること」は多くの人から反響を得られる記事にしたり、社会的インパクトを与えるために大切な役割です。編集側の意図は測らずとも入ってしまいますし、メディアの人間としても必要だと思っています。ただ、本質と違う見せ方をすることで多くの人から短期的な注目を集めることは「消費される」ことへとつながってしまいます。

いま“デザイン”は単なるトレンドではなく、大きなうねり、社会の変化へとつなげるなければいけません。そのためには、デザイン側にもメリットが必要だし、メディア側にも、読者側にもメリットがいる。デザインに携わる人のメッセージと、メディア側のメッセージと、読者側の期待が揃う“三方よし”なコンテンツが必要だと僕は思っています。

デザインを適切に発信し、その総量を増やす


といった具合が、今回の起業の経緯です。

現在のお仕事も徐々にデザイン領域と、そのナレッジに役立つものへと徐々にシフトしていく予定です。デザイン界隈で情報発信を考えていらっしゃる方は、ご一緒できると嬉しいです。一応連絡先はサポート欄に。

そのほか、デザイン領域での情報発信に関心があるという編集者やライターの方も募集します。アシスタントは一旦募集を打ち切ったのですが、パートナー的に一緒に働きたいという方はぜひご連絡ください。

デザイン界隈のみなさま、編集界隈のみなさま、その他この記事を読んでいただいたすべてのみなさま、今後とも小山和之、およびweaving inc.をよろしくお願いいたします。

Credit
執筆
小山和之

designing編集長・事業責任者。大学卒業後、建築設計事務所、デザインコンサルでの編集ディレクター/PjMを経て独立。2017年designingを創刊。2021年、事業譲渡を経て、事業責任者。

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