デザイン読書補講 9コマ目『担当になったら知っておきたい「プロジェクトマネジメント」実践講座』

なんでプロジェクトマネジメントに取り組んでほしいと思っているのか。おせっかいと言われればそれまでなのですが、学生のうちに知識として持っておきたかったな……という自分自身の過去があるからなんです。

supplementary reading

こんにちはこんばんは、吉竹です。

この『デザイン読書補講』は「デザインを学び始めた人(主に学生)の世界を少しでもひろげられるような書籍をおすすめする」をコンセプトに連載しています。

わたしの自己紹介や、この連載が生まれた経緯は1コマ目『UX・情報設計から学ぶ計画づくりの道しるべ』で書いていますので「どういう人が書いているんだろう?」と気になった方は合わせて読んでみてください。

デザイン読書補講 1コマ目『UX・情報設計から学ぶ計画づくりの道しるべ』
https://designing.jp/supplementary-reading-1
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今日の1冊

さて、デザイン読書補講 9コマ目にご紹介するのは伊藤大輔『担当になったら知っておきたい「プロジェクトマネジメント」実践講座』(日本実業出版社)です。

この連載では基本的にTipsやHowTo系の書籍は扱わない方針ですが、今回はテクニカル寄りな1冊となっています。

「プロジェクトマネジメント」実践講座
¥ 2420
https://www.amazon.co.jp/dp/4534054696
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みなさんは「プロジェクトマネジメント」という言葉を聞いたことがありますか?日本語にすると「計画の管理」といったところでしょうか。本書中では独自の目的・目標を期限までに達成させるため「やりくり」する手法と紹介されています。ではプロジェクトとは何かと言うと独自の目的・目標を設定し、それを期限までに達成させる一連の活動であると書かれています。
この言葉だけだと、なんだか仕事っぽい、めんどくさそう印象を持たれるかもしれません。たしかに本書はビジネス書に分類されますが、わたしたちの生活を見渡してみると、じつに多くのプロジェクトが隠れています。

例えば「料理」。何を作るのか、どう作るのか、準備をいつはじめるのか……これらを「やりくり」しながら、料理の目的(おいしい料理を食べてお腹を満たす)の達成を目指す。こうして書くと、身近な行為にもプロジェクトの側面が潜んでいるのがわかるかと思います。
そして大小さまざまなプロジェクトを「やりくり」できるようになるにはプロジェクトマネジメントと呼ばれる技術が役立ちます。

プロジェクトマネジメントはビジネスの場で発展してきた背景があり、ISO規格(国際規格)やPMBOKと呼ばれる知識体系が存在します。本書はISO規格に準拠して書かれており、文中で説明されている状況や単語も仕事に就いている人を前提としたものです。

なので本書を読む際には、まずは自分が理解できる範囲に絞って読んでもらえれば大丈夫。逆に言うと、会社なり組織なりである程度の規模のプロジェクトを経験した後に読むと全体が理解できるようになります。

なぜプロジェクトマネジメントか

今回の想定読者は、学校でわたしの講義を受講している学生たちを設定しています。もともとそういうコンセプトで始まった連載ですが、今回に限ってはダイレクトに想定しました。なぜなら、このテキストが公開される頃に講義中で『制作課題』に取り組むタイミングだからです。

制作課題は講義の最終日に各々が考え制作したサービス・プロダクトをプレゼンテーションするもので、評価に直接的につながる成果物でもある。そして制作期間はいくつかのフェーズに分かれており、プロジェクトマネジメントを試すのに良い練習台となっています。

ただ、過去の年度では明確に「プロジェクトマネジメントしてくださいね」とは言ってきませんでした。話すタイミングや時間を作れなかったのもあるし、この連載がはじまっていなかったからでもあります。

ですが今年はこうして紹介できる機会がやってきたので、この場を借りてお伝えしたいと思います。連載タイトルの「補講」はメタファーですが、今回は本物の補講に近いテイストで書き進めていきます。

じゃあ、なんでプロジェクトマネジメントに取り組んでほしいと思っているのか。おせっかいと言われればそれまでなのですが、学生のうちに知識として持っておきたかったな……という自分自身の過去があるからなんです。

自分がプロジェクトマネジメントを知ったのは就職して働くようになってからです。と言っても明確に「プロジェクトマネジメントしてね」と言われたわけではなく(たぶん……)、プロジェクトの中でデザイナーとしてどのように動けばいいのか、何を把握すればいいのかといった経験を経て、少しずつ身に付けていった記憶があります。成果物とスケジュールが明確に決まっていた仕事内容だったのもいま思うと影響していました。

学生時代の自分は課題に取り組むときに何も考えていませんでした。提出が○○日だからそれまでに間に合わせるようにがんばろう、くらいのノリ。いや、もうちょっと考えていたかもしれないけど。
思い返すに、プロジェクトマネジメントを知らない頃はプロジェクトに対する認識が一次元的だったような気がします。「あ、来週〆切だ」とか「今日はアレやるか」みたいに、その場その場で思い付いて実行しては意識から消える感じ。でも、ここに知識が加わると、プロジェクトに対して二次元的に考えられるようになります。

毎年、課題の提出が〆切直前だったり深夜遅くになる学生をよく見かけます。その背景まではわかりませんが、もしプロジェクトマネジメントができていない・知らない結果なのだとしたら、少しでも改善の手助けになれるんじゃないか。せっかく〆切直前まで取り組むなら、間に合わないからではなくクオリティを上げるために使えるようにアドバイスできないか。そんな考えから今回のテーマを選びました。

プロジェクトマネジメントにおける計画の立て方

みなさんにとって、本書の第3章『段階的に計画を立てる』はもっとも有用な章でしょう。この章ではプロジェクトを実行する前の「計画」、つまり課題に着手する前にどのような準備や何を考えたらいいのかが学べる構成になっています。以下にトピックを簡略化して書き出してみました。

  • プロジェクトの範囲を設定する
  • プロジェクトを分解する
  • スケジュールを考える
  • スケジュールを可視化する
  • リスクについて考える


今回はこの中から「プロジェクトを分解する」「スケジュールを可視化する」の2つに注目して、どのように取り組めると効果的なのかを紹介します。

まず「プロジェクトの分解」ですが、これは「プロジェクトの具体化」「プロジェクトの構造化」と言い換えてもよいでしょう。プロジェクトの出発点は抽象的な「目的」と具体的な「目標」のセットで語られることが多いです。制作課題を例に書き出すと以下のようになります。

  • 自分で考えたサービス・プロダクトをプレゼンする(目的)
  • そのために3人にインタビューする、アイデアを20個出す、Adobe XDで10画面つくる、etc…(目標)


しかし、このままではゴールが見えていても辿り着くための道のりが不鮮明です。

プロジェクトの分解は、目の前の霧を一歩ずつ晴らしていくような作業です。うまく分解できれば、ゴールに辿り着くためにどんなルートが考えられそうか、どこに落とし穴がありそうか、といった全体像が見えてきます。

本書中ではWBS(Work Breakdown Structure)と呼ばれる手法に準拠していますが、まずはゴールの達成に必要な構成要素を洗い出して分解し、それらをさらに分解すると必要な成果物やアクションが見えてくるものだと認識できれば大丈夫です。例えば制作課題には

  • インタビュー実施・サービスコンセプト策定
  • コア機能策定・ペーパープロトタイピング実施
  • Adobe XDデータ作成


の3フェーズを設けています。これらはゴールを分解した最初の大きな要素だと思ってください。そうすると、次はインタビュー実施という小さなゴールが見えてきます。このゴールを達成するには「インタビュー内容の書き起こし」という成果物が必要になります。では成果物の実現にはどんなアクションが必要か。さらに分解すると以下のように具体化できます。

  • インタビュイーの候補を決める
  • インタビューの方向性を決める
  • インタビューの本を読んで復習する
  • etc


ただ頭の中でぼんやりと考えるよりも、可視化されることでプロジェクトの実体がクリアになってきているのがわかるかと思います。こうした構造化にはみなさんに馴染みのあるMiroを使うと効果的です。

プロジェクトが分解できたら、スケジュールを可視化するために各アクションを材料に順序付けをおこなうとよいでしょう。
アクションには次のような情報が隠れています。

  • Aが完了しないとBに着手できない
  • CとDは並列で進められる
  • Eがうまくいかなかった場合、手戻りが発生する


例えばインタビューを実施するにはインタビュイーを誰にするか・なにを質問するかが決まっていないとできません。あるいは、インタビュー結果が期待する内容でなかった場合は再実施が考えられます。こうしたアクションごとの関係性や特性を念頭に置きながら順序付けをおこなっていきます。講義で学んだ知識を活かせば、順序付けはスムーズにおこなえるはずです。

順序付けがひととおりできたら、最後に各アクションの達成に必要なスケジュールを可視化します。ここで用いるのがガントチャートと呼ばれるグラフです。

ガントチャートは通常、時間軸が左から右へ流れます。左端にはアクションが並んでおり、プロジェクト全体のスケジュールが把握できる構成になっています。

各スケジュールには作業ボリュームを予測してバッファ(余剰)を持たせてみてください。みなさんは学生ですから、講義がある日はアクションに割り振れる時間はそう多くないでしょう。学期末は多くの講義で課題が同時発生しやすく、使える時間すべてを1つの課題にあてることも難しいと思います。完了するのに8時間かかるアクションがあったとして、割り振れる時間が1日2時間だとしたら必要な日数は4日となります。でも、ほかの課題に思ったより時間を使ったり、急な差し込みも発生するかもしれません。

そういった不確実性も考慮しながらガントチャートで可視化していくと、当初は何も見えていなかったプロジェクトのスケジュール像が現実となってあらわれてきます。さながらガントチャートは、時間という海に浮かぶ足場だと言えるでしょう。

あとはプロジェクトを進めながら適宜チャートをアップデートしていけば、プロジェクトマネジメントの初歩としては十分でしょう。

ガントチャートを作成できるサービスはいくつかありますが、まずはタスク管理一式ができる「Jooto」がおすすめです。新しいもの好きな人は「Notion」を試してみてもよいでしょう。どちらも無料で使えるサービスです。

Jooto - 無料から使えるタスク・プロジェクト管理ツール
https://www.jooto.com/
サイトを開く
Notion – One workspace. Every team.
https://www.notion.so/
サイトを開く

プロジェクトマネジメントを学ぶには

以上、簡単ではありましたが「プロジェクトの分解」「スケジュールの可視化」について紹介しました。ぼんやりとプロジェクトマネジメントがどのような概念か、どれくらい有用かが見えてくれたら嬉しいです。

一方で、実際に体験しないとわからないこともたくさんあります。わたしたちの生活にはプロジェクトが多く隠れていると最初に書きましたが、本格的なプロジェクトで得られる経験はまた別格です。特に以下の性質を含むプロジェクトはおすすめです。

  • 他者と協働しやすい
  • 長期的なスケジュールになりやすい
  • アクションが細かくなりやすい
  • 多少の金額が動く


わたし自身の経験だと、展示会の企画や即売会への参加が該当します。特に展示会は自分たちで企画運営もおこなったので、実にたくさんの不確実性と出会いました。会場はどこを借りる?予算はいくらにする?スタッフに誰を誘う?参加者は何人にする?……すべてが想定どおりに進むことはまずありません。ですが、一度経験すればプロジェクトマネジメントの知見を豊富に得られるでしょう。以下は20名近くが参加した写真展示会の運営で利用したガントチャートです。さまざまなアクションを意識しながらプロジェクトを進行できたのは良い経験でした。

一方で、他人やお金が動くプロジェクトは手軽に失敗できないのが難点です。そういう意味では、やはり学校で取り組む課題はプロジェクトマネジメントを学ぶのに最適と言えるでしょう。ひとつひとつの課題は異なる内容ですが「課題をどうやりくりするか」というプロジェクトマネジメントの視点は共通です。意識して取り組み続ければ見える景色が変わることを保証します。

みなさんの制作課題を見れる日を楽しみにしています。

Credit
吉竹遼

フェンリル株式会社にてスマートフォンアプリの企画・UIデザインに従事後、STANDARDへ参画。UIデザインを中心に、新規事業の立ち上げ・既存事業の改善などを支援。2018年に よりデザイン として独立後、THE GUILDにパートナーとして参画。近著に『はじめてのUIデザイン 改訂版』(共著)など。東洋美術学校 非常勤講師。

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