
色彩ではない「品格」 — AURALEE SUPER FINE TROPICAL WOOL SHIRT
服は、ヒトの最も表面に存在する「身体の一部」とも言える。それは、その人がどのような価値観を大切にしているかを、雄弁に物語る役割も担っている。
WHY THIS MATTER?建築・編集の視点を土台に、国内外のさまざまなプロダクトを見渡し独自の視点・美意識のもとセレクトする岡田 和路による連載『WHY THIS MATTER?』——氏の愛用品からモノの物語を紡いでもらう。
—
岡田 和路|Kazuyuki Okada
CXディレクター&編集者。建築学を土台に「作り手と使い手の架け橋」を探求。メディアで言葉を編む技術を培い、大手メーカーでは世界市場に向けたブランド戦略を担う。事業とクリエイティブを接続する視点を体得し、現在はIT企業にてデータを起点としたCXディレクションで企業の事業成長を支援する。
モノを選ぶことは、自らの生活を編集することだ。 椅子一脚、アプリのアイコンひとつ──小さな決断が私たちの日常のレイアウトを静かに書き換えている。WHY THIS MATTER? は、選択の裏側に宿る思想を解剖し、つくり手の哲学をユーザーの感覚と言葉へ翻訳する試みだ。味覚、触感、重量感といった五感のシグナルを入り口に、素材や工程、そしてブランドストーリーを掘り下げることで、衣食住を横断する「価値の構造」を可視化する。読者には暮らしを編集するヒントを、企業には次のプロダクトやブランドシナリオを描くための手掛かりを届けたい。
揺るがない、二つの基準
私の服選びには、10代の頃から変わらない、明確な二つの基準がある。 ひとつは「無地であること」。 もうひとつは「肌触りがいいこと」。
私は自身を「質感フェチ」だと自覚している。だからこそ、日々の生活で最も長く触れ続ける「服」という存在において、素材感で残念な気持ちになりたくない。むしろ「いつまでも触れていたい」というポジティブな高揚感こそが、選択の絶対条件だ。
ロゴやグラフィックによる表層的な主張よりも、素材そのものが持つ質感や、身体が喜ぶ感覚を優先する。この価値観は、年齢を重ねた今も変わらない。
素材からデザインする、という思想
そんな私がここ数年、最も信頼を寄せ、お世話になっているブランドがある。
『AURALEE(オーラリー)』だ。
一度「これだ」と決まると、ひとつのシーズンで10着前後のアイテムを購入してしまう私にとって、このブランドはもはや『いつもの服』、すなわち定番だ。クローゼットに溜まったタグを数えれば、その数は数十個にものぼる。
特に私が最も多く購入しているカテゴリーが「シャツ」だ。 オーラリーのシャツが持つ、あの独特の品格には抗いがたい魅力がある。
私がここまでオーラリーに惹かれる理由は、その成り立ちと哲学に深く関係している。
デザイナーは岩井良太氏。いくつかのブランドで経験を積んだ彼が、2015年にスタートさせた。 その根幹にある思想は、「素材づくりからがデザインである」というものだ。
原料を選定し、日本各地の優れた工場や職人たちと協働し、オリジナルでテキスタイルを開発する。デザインありきで生地を探すのではなく、まず「最高の素材」を生み出し、その素材が最も活きる形は何か、を考える。
一般的なアプローチとは異なるかもしれないが、これこそが「本質的」だと私は感じている。 この「素材への執念」とも言える真摯な姿勢が、私の「肌触りがいいこと」という基準と、これ以上なく深く共鳴するのだ。だからオーラリーの服は、デザインが奇抜でなくとも、まず生地そのものに圧倒的な力がある。
言語化できない、カーキの深淵
その中でも、私の中で特別な位置を占める一着がある。
『SUPER FINE TROPICAL WOOL SHIRT』
これはSuper 180'sウール──極細の糸を高密度で織り上げたウールトロピカル生地を使用した、定番の長袖シャツだ。 ウールでありながら、シルクのような滑らかさと、リネンのような清涼感を併せ持つ。
レギュラーで展開され、シーズンごとに異なる色合いが発表されるが、昨シーズン(24AW)の『DARK KHAKI』カラーは、私個人のオーラリー史において、間違いなく名作だと感じている。
まず、この色合いが、なんとも言えないのだ。 カーキであり、ブラウンであり、グレーのようでもある。光の当たり方で表情が変わり、一言では言語化が難しい。
しかし、そこにはオーラリーらしさの「気配」が全開で立ち昇っている。 素材のポテンシャルを最大限に引き出し、曖昧で、ニュアンスに富んだ色彩に落とし込む。これはオーラリーにしか作れない服だ。
この生地と色があまりに気に入り、セットアップで展開されていたパンツも同時購入したほどだ。
品格を纏う感覚
オーラリーの服は、過度な主張をしない。 しかし、袖を通した瞬間、その品のよさに気づかされる。
服は、ヒトの最も表面に存在する「身体の一部」とも言える。それは、その人がどのような価値観を大切にしているかを、雄弁に物語る役割も担っている。
昨今は注目度が非常に高まり、店頭では入荷初日でないと手に入らないほどの加熱ぶりを見せていた。しかし、最近は生産体制の見直しなども進んでいる様子で、少しずつ手に取りやすくなっているのは、長年のファンとして素直にありがたい。
私の二つの基準、「無地」と「肌触り」。 その高いレベルでの最適解を、オーラリーは毎シーズン提示し続けてくれる。これからも、私の「いつもの服」として、お世話になり続けるだろう。
WHY THIS MATTER?