触れるための「輪郭」 — 岩田哲宏 プレート/ボウル

器は「見る」道具であると同時に、それ以上に「触る」道具だ。

WHY THIS MATTER?

建築・編集の視点を土台に、国内外のさまざまなプロダクトを見渡し独自の視点・美意識のもとセレクトする岡田 和路による連載『WHY THIS MATTER?』——氏の愛用品からモノの物語を紡いでもらう。

岡田 和路|Kazuyuki Okada
CXディレクター&編集者。建築学を土台に「作り手と使い手の架け橋」を探求。メディアで言葉を編む技術を培い、大手メーカーでは世界市場に向けたブランド戦略を担う。事業とクリエイティブを接続する視点を体得し、現在はIT企業にてデータを起点としたCXディレクションで企業の事業成長を支援する。

モノを選ぶことは、自らの生活を編集することだ。 椅子一脚、アプリのアイコンひとつ──小さな決断が私たちの日常のレイアウトを静かに書き換えている。WHY THIS MATTER? は、選択の裏側に宿る思想を解剖し、つくり手の哲学をユーザーの感覚と言葉へ翻訳する試みだ。味覚、触感、重量感といった五感のシグナルを入り口に、素材や工程、そしてブランドストーリーを掘り下げることで、衣食住を横断する「価値の構造」を可視化する。読者には暮らしを編集するヒントを、企業には次のプロダクトやブランドシナリオを描くための手掛かりを届けたい。

掌(たなごころ)に宿る、静かなる美意識

以前の記事でも触れたかもしれないが、わが家には、暮らしへの関心が高じてか、あるいは単なる収集癖か、多くの食器やカトラリーが所狭しと並んでいる。

その日の気分や料理に合わせ、食器棚から一軍、二軍を入れ替える。その選択自体が楽しみでもある。 しかし、ふと無意識の動線を振り返ってみると、気づけばいつも手に取っている器がある。

登板回数、最多。 わが家の食卓という「現場」において、最も信頼を寄せている「解」。 それが、ある作家の作品群だった。

数えてみると、わが家には彼の作品が20点以上あった。 作家、岩田哲宏氏。代表作は『エッジプレート』そして『フランジボウル』である。

それは単なる「シンプル」ではない。 そこにあるのは、空間と用の関係性を突き詰めた思考。不要な装飾を排し、構造そのものの美しさを際立たせるアプローチだ。

彼の経歴はユニークだ。大学では建築を学び、その後、陶芸家・伊藤環氏の元で師事し、独立。 その背景を知ると、その作品が放つ空気に、深く合点がいく。

馴染む「白」、触れて満たす「道具」

岩田氏の作品は、決して純白ではない。 わずかに黄みがかった、あるいは青みがかった、何とも言えないナチュラルな「白」。

この曖昧さが、わが家の食器棚や、使い込んだ木のテーブルの色合いと、完璧に調和する。主張しすぎず、かといって埋没もしない。料理を引き立て、空間全体に溶け込む、絶妙なニュートラル。

そして、その輪郭が、息を呑むほどに美しい。

器は「見る」道具であると同時に、それ以上に「触る」道具だ。 私たちは食事中、無意識に何度も器に触れている。

配膳の際に指先に触れる感触。 食卓で、ふと指を滑らせるライン。 洗い物の際に掌で包み込む丸み。

これらの器は、そのすべてのアクションで、指先に静かな快感を与えてくれる。 凛と立ち上がったプレートのエッジ。液体を美しく受け止めるボウルのフランジ。 「手触りがいい」ことは、毎日使う道具にとって、何よりも重要な「機能」なのだと気づかされる。

日常の「余白」を埋める、万能な器

わが家で登板回数が多いのは、『エッジプレート』と『フランジボウル』だ。 

前者は、取り皿としてはもちろん、余白を活かしてワンプレートの食事にも耐えうる懐の深さを持つ。後者は、スープのような汁物から、パスタや麺類まで、あらゆるものを寛容に受け止めてくれる。

時に、プラチナ縁のモデルのエッジプレートをアクセントに加える。 それだけで、日常の食卓が少しだけ「編集」される感覚。

この万能さが、私の無意識を掴んで離さない。

左手前:マグ/中央:フランジボウル(手前と奥でサイズ違い)/右:絵爺プレート(プラチナ縁)

作り手の熱が、使い手に伝播する

以前、建築の仕事をしている友人がわが家に遊びに来た時のこと。 食卓に出した器を見て、彼が不意に口を開いた。 「これってもしかして、岩田哲宏の作品?」

器が好きなのだな、と思う間もなく、彼は興奮した様子で続けた。 岩田氏とは大学時代からの盟友で、当時からお互いのモノづくりについて、熱く語り合っていたとのこと。

作り手の熱量が、時を経て、使い手である私の日常に浸透し、そして別の作り手である友人と再会する。 友人は、自分のことのように感動し、「彼の作品が、こんな風に日常で愛用されているシーンに立ち会えて嬉しい」と、その場で作家本人にもLINEを送っていたほどだ。

作家の手を離れたプロダクトが、社会の現場で機能している。その美しい瞬間に立ち会えた気がした。

日常から紡がれる、ものづくり

Instagramを拝見する限り、岩田氏は今も精力的に新作の開発を続けている。 それと同時に、ストーリーズではご家族や趣味といった「日常」も垣間見える。その穏やかな日常から生まれるからこそ、彼の作品は私たちの暮らしに違和感なく溶け込むのだろう。

そうした「今」を感じさせる作家性も、私を惹きつける理由だ。 わが家の食卓という定番のラインナップに、次はどんな解が仲間入りするのか。これからも目が離せない作家の一人だ。

Credit
執筆
岡田和路

CXディレクター&編集者
建築学を土台に、「作り手と使い手」の間に横たわる溝を思考の出発点とする。メディアの編集者として言葉を編み、大手メーカーでは事業開発からグローバル規模でのブランド戦略までを横断。リサーチ組織のメディア立ち上げや、事業構想をブランドの物語として紡ぐプロジェクトを通じ、スケールの異なる「価値の翻訳」を実践してきた。現在はIT企業にて、データを起点としたCXディレクションに従事。デジタルとリアル、戦略と実行を往復しながら、新たな体験価値を創造し続けている。

撮影
室岡 小百合

1998年生まれ / SIGNO所属

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